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孤独な月を 神は笑った
UNDICI



ごぼっ、と堪えきれなくなった血の塊を吐き出し、グロリアは俯せるベッドのシーツを力一杯握り締めた


ぜぇぜぇと酷く荒い呼吸音が耳障りで、血で濡れて肌にまとわりつくドレスを今すぐにでも脱ぎ捨ててしまいたい


しかし未だに止まる気配を見せない左胸の穴から失われ続ける血のせいで、もはや自分の意思で体を動かす事すら儘[ママ]ならなくなっていた



痛みを必死に殺し、悲鳴を上げそうになるのをただひたすらに耐える。いっそこのまま死ねたらどんなに楽だろう、と何度思った事だろうか


死ぬ事など許されない、ましてや痛みに泣くなんてもっての他だ。罪に染まったこの体は、痛みと苦しみを欲しいつまでもグロリアを蝕むのだ


















「…中止?」



グロリアの事が心配で−−尤も本当に心配しているのはツナと骸くらいであとは好奇心からだが−−口数少なくリビングに集まっていたツナ達は、突如現れたシャドウにそう告げられ困惑した



今日の特訓は中止。各々城内で好きに過ごせ、とグロリアが言っているとシャドウは告げた



「そんなに、悪いんですか?昨日の傷が…」


「いいえ、要因はそれだけではありません。決して六道様だけのせいではないので、そう暗い顔をなさらないで下さい」


「しかし…、なら、グロリアに会わせて下さい。彼女の無事をこの目で確認するまでは安心できません」


「主には誰も部屋に通すなと言われております。心中お察し致しますが、今の主は他人に会える状況ではないのです」



断固として譲らないシャドウは酷く気に病んだ様子の骸を労っているものの、最優先に従うべきはグロリアだと心得ている


本来なら死んで当然の傷を負って尚生き続けるグロリアに何を思うのか。長年連れ添って来たシャドウはこういう経験も何度かしたのかもしれない



「…ねぇ、あいつってどうやったら死ぬの?」



シャドウと骸の会話を黙って聞いていた雲雀が、唐突にそう訊いた



「…どういう、意味でしょう」


「綱吉と骸、たった2人相手しただけであいつは死にかけてる。右手の火傷もあるし、死なない存在だとしても、僕らの特訓とやらを続行できない程弱ってるんだろ?

この後まだ4人も、しかも僕と赤ん坊が残ってる。今以上の傷を負う危険性は十分過ぎる程あるって事だよ。

君はあいつを殺されたくない、だったら僕らに“殺し方”を教えておく方が無難だと思わないかい?僕らはそれを回避して今後の特訓に臨めば良いんだから」



雲雀の言う事にも一理あった。“魔女の殺し方”を知らなければうっかりそれを実行してしまう可能性だってあるのだ


ならばそうならないように、先にその方法を知っておけば、グロリアを殺さずに済むかもしれないと雲雀は言いたいのだろう



「…お言葉ですが雲雀様。主の殺め方をお教えして、皆様がそれを実行しないという保証がどこにありますか」


「少なくとも僕は殺さないよ、あいつにはまだ聞きたい事が山程あるしね。綱吉は馬鹿みたいにお人好しだし、骸は昨日の一件で戦意を喪失してる。山本武は余程の事でない限り他人を傷付けないし、獄寺隼人は綱吉の為で無い限り動かない。

唯一勝手な事をしそうな赤ん坊はボンゴレの不利益になるような事は絶対しない。ここに来てようやくグロリアの能力を認めたみたいだし、本気でボンゴレに引き込もうと思ってるんだろ?それなのにわざわざ殺したりしないさ」


「それは“現在-イマ-”の話でしょう。この先皆様が主を裏切らないとも限りません」


「随分慎重なんだね。それはあいつの指示?それとも過去に何かあったから?」



グロリアの殺し方を唯一知っているシャドウは一向に口を割ろうとはしない。保身の為か、グロリアの為か、ツキノワグマの表情を読む事は難しかったが、少なくとも雲雀は引き下がるつもりは毛頭無かった



「…主を殺める方法は、きっと皆様の想像しているような方法とは全く違います。ただしそれは人間も殺せる方法です。…これ以上は、私の口からは言えません」


「ふうん、詳しく聞きたければ直接ってこと?」


「主が話すかどうかは分かりませんが、皆様を信用すれば話すでしょう。しかし…」


「何?勿体ぶらないで言いなよ」



あからさまに顔を曇らせ言葉を濁すシャドウに催促する雲雀。言って良いものか悩んでいたシャドウは、これも親愛なるグロリアの為と口を開いた





「…主が皆様を信用するなんて、未来永劫有り得ない事だと思います」


「……どういう意味だい?あいつは僕らの何が不満なの」


「−−心臓に穴が開く痛みをご存知ですか。体内の血液の殆んどを奪われながらも生き長らえる辛さを、本来即死してもおかしくない傷を負ってもまだ死ねない苦しみが分かりますか。

…主は皆様とは次元の異なる存在です。主は誰かに心を赦したりしないのです。今まで、主が信じた人全てが主を裏切ったのですから」



シャドウは小さな瞳で確かに骸を見つめていた。真っ直ぐに、批難するような目で



「…明日は獄寺様と山本様の特訓だと、主が申しておりました。お昼頃、私がお部屋に迎えに参りますのでお待ち下さい」


「は…?あの身体で、俺ら2人相手にするつもりかよ」


「手加減は一切無用、やる気が無ければ殺すぞと主が」


「…ちょっと待ってよ、シャドウ。いくらなんでも隼人と山本をいっぺんになんて、グロリアでも危険過ぎるんじゃ」


「主も危険は百も承知でしょう。しかし時間が無いのです。…時間操作と身体の傷で主の負担は決壊ギリギリなのです。甘い事は言っていられません」


「なら、一旦時間を戻してグロリアの傷が治ってからにしようぜ?オレも、怪我した女相手に特訓はちょっとなー」


「…約束、なのです。主が死ぬまでに遂げなければならない、果たさねば死ぬ事すらできない使命なのです。

皆様は何も気にする事無く、ただ己れを磨く為に主の出す試練に応えて下されば良い。私は、そのお手伝いしかできませんが」





痛みに独りで耐える事がどれ程辛い事か、苦しみに泣く事ができない事がどれ程苦しいか、知る者は1人も居なかった


何故なら雲雀達は“独り”ではないから。辛い時も苦しい時も、共に乗り越える“仲間”が居た



−−もしこの時、誰かたった1人でもグロリアの苦しみを理解する事ができたら、誰も望まなかったこんな未来を、変えられたのだろうか




†Before††Next†

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