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孤独な月を 神は笑った
OTTO



長いダイニングテーブルに所狭しと置かれた豪華な料理の数々を見て、ツナ達は一様に目を丸くした


凡[オヨ]そ6人では食べきれない程の量の夕食に驚きを隠せないのだ



「毒は入っていないよ。何なら毒味してやっても良いが下手な詮索はシャドウへの侮辱として受け取る。まあ黙って食え」



どうやら寝起きらしいグロリアは小さく欠伸を漏らしながらも、シャドウが取り分けたサラダを受け取る



「これ、全部シャドウが?」


「ああ、数日前から準備させていたのだよ。感謝しろよ、シャドウがわたし以外の為に食事を作る事は滅多に無い」



シャドウの頭を軽く撫でたグロリアはそのまま全員に着席するように促す。断る理由も無いツナ達は朝と同じ位置に座った


まさか1人で作ったとは思えない程の量と豪華さ。しかも仮にもツキノワグマが作ったとは俄[ニワカ]に信じられなかった



「好きなだけ食え。それなりに力を付けてもらわないと張り合いがないからな」



シャドウが1人1人にワインを注いで回り、グロリアが手にしたグラスを軽く翳す


何事も無くグロリアが料理を口にしているのを見て、ツナも恐る恐るではあるが目の前にあるブルスケッタに手を伸ばした



「十代目!?先に俺が毒味を…」


「平気だよ。グロリアが俺らを殺しても意味は無いし、それにこれすっごく美味しい」



若干心配していた妙な味は全くせず、ツナは安心してそれを飲み込んだ。既に何度かグロリアと食事をした事のある雲雀はツナより先に食べ始めていた


そんな二人の様子を見て警戒心を解いたのか、黙って見ていたリボーンや山本も料理に手を付ける。しばらくすれば、賑やかな夕食会となった



「獄寺隼人、やる事が無くて暇なら特別に厨房を貸してやる。わたしの為にケーキでも焼いてくれ」


「…あん?なんで俺が」


「おまえの特訓はまだ先だ。城内を歩き回って暇だとごねていただろう?」


「なっ、聞いてたのかよ!?」


「わたしに隠し事をしようなんて思わない事だ。わたしの能力は千里眼や読心術とは異なる物だからな」



夕食は薔薇ではなくシャドウの作った料理を食べるグロリアはどこか機嫌が良さそうだった


その様子をチラッと見た雲雀は、恐らくこんな風に大勢で食事をする事が無いからだろうと思った


以前雲雀がグロリアの城に泊まった時、シャドウがわざわざ頭を下げてまで一緒に食事をさせた程なのだ


この広い城にただ1人で、唯一居る従者のシャドウは食事を摂らないとなれば、三食食べる習慣が疎かになるのも必然だろう



「所でグロリア、俺の超直感はグロリアが初代にあげたものだって言ってたけど、あれってどういう意味?」



メイン料理のサルティンボッカをパクつきながら、ツナはふと気になっていた事を訊いてみた。視線を動かした先のグロリアはシャドウから赤いカクテルを受け取っている所だった



「そのままの意味だよ。わたしがジョットに与えた能力が代々おまえ達に受け継がれているのさ」


「なんで、グロリアが初代に超直感を?」


「ジョットには前の城を貰った。あの城は元はボンゴレの所有物でね、わたしが目を付けて取り引きを持ち掛けたのだよ」


「じゃあ、城の対価に超直感を払ったって事?それが何で俺らに受け継がれてるの?」


「わたしが城を使っている間は超直感を有効にしろとジョットが条件を付けてね。まあ妥当だろうとわたしも飲んだのだ。

新しい城もおまえ達に用意してもらったしわざわざ超直感を取り上げるのも面倒だから、超直感はおまえに与えておくよ」


「…良いの?だって城の対価は情報だって」


「別に構わん。既におまえ達の血に染み付いた能力だからな、そのまま代々受け継げば良い。わたしの意識外で機能している能力だから仮にわたしが居なくなったとしても超直感が失われる事は無いよ。

“ブラッド・オブ・ボンゴレ”はそれなりに重要なのだろう?」



グロリアはドン・ボンゴレになるには初代から引き継ぐ“血”が必要不可欠である事を言っているのだろう。“血”とは即ち超直感


確かにグロリアに超直感を取り上げられてしまうと、誰でもその資格が与えられてしまい混乱と抗争を招く事になりかねない



「でもなんで、敢えて超直感なの?グロリアの瞬間移動とか透視とかの方が他人にも分かり易くて良いと思うんだけど」


「そうでもないさ。あからさまに人間離れした能力では意味が無い、しかし他の人間では持てぬ能力でこそ価値があるのだよ。人間とは不可視の能力を本能的に恐れるものだ。

ジョットに要求されたのはそういう能力だったからね」


「…そうなんだ、じゃあ俺はグロリアに感謝しなきゃね」




にっこりと笑顔になったツナの言う事が理解できないのか、グロリアは怪訝そうに眉を潜めた



「超直感が無ければ俺はボスにはなれなかったし、まあ昔は色々悩んだけど今はこの仕事に就けて良かったと思うし、…グロリアが上手く立ち回ってくれなければ、今の俺は無かったって事だから」



ツナの考え方はどうやら予想外だったらしく、グロリアは2・3度瞬きを繰り返した



「…そう言っていられるのも今の内かも知れんぞ。おまえもわたしを恨む日が来るやもしれん」


「自分を傷付けてまで俺らを成長させようとしてくれてる人が敵だなんて思わないよ、だから大丈夫」



一瞬目が合ったリボーンは、やはりお人好しだとどこか呆れたような視線を投げ掛けたが、ツナはこれで良いのだと思った


少なくともツナはグロリアに敵意を感じないし、今だけでも仲良く過ごせれば良い。“今”がいつまでも続けば良いのだから



「……好きにしろ、他人の考えに介入するつもりは無いからな。

話は変わるが、明日の特訓は誰が良い?わたしは誰でも良いがな」



グロリアがツナの考えに何を思ったのか口にする事は無かった。しかしいつも笑みを貼り付かせている口角は、弧を描いているもののどこか寂し気だった



「俺らも誰でも良いけど」


「そうか。ならば六道骸にしようか、どうやら退屈しているようだしな」


「…待って下さい、グロリア。僕はどんな理由があろうと貴女を攻撃するなんてできません」



いきなり指名され驚きを隠せない骸は、しかしきっぱりと拒絶を示した。前世の関係性を忘れられない骸は、グロリアに情が移ったのだろう



「……ならば攻撃できる理由をやろうか。おまえのその右目は、わたしが植え付けた物だと言ったらどうする?」


「…この右目が?これはエストラーネオファミリーでの人体実験で、」


「ああ、そうだ。おまえをエストラーネオファミリーに落としたのは、このわたしなのだよ」



目を見開いた骸はその言葉が嘘である事を願った。しかしグロリアはわずかな微笑すら消していて、それが紛れも無い事実である事を如実に語っていた




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