[携帯モード] [URL送信]

孤独な月を 神は笑った
SETTVE



瞬間移動で部屋に戻ったグロリアは、躊躇う事無く漆黒のドレスを脱ぎ捨て等身大の姿見の前に立った


細くしなやかな四肢に括れた腰、形良く突き出た胸と無駄な肉の付いていない身体。誰もが見惚れる程均整の取れた美しい身体には、先程ツナが食らわせた拳の重さを物語る大きな青痣ができていた


その醜い痣を細い指で数回なぞり、グロリアはしばし目を閉じた。何か物思いに耽[フケ]るように眉根を寄せた後、くるっと後ろを向き今度は鏡に背中を移す


背中全体が打ち身のように赤く染まり痛々しい。それを目にし、はあっと重く息を吐いたグロリアの背後に、真っ赤なドレスを手にしたシャドウが現れた



「…グロリア様、お召し変えを」


「ああ、すまないな」



手渡されたドレスを纏い、グロリアはいつものようにカウチソファに座った。シャドウが差し出したバイオレット・フィズを受け取り軽く口に含む


その名の通り深いアメシスト色をしたこの甘口のカクテルは、世界一美しいカクテルとも言われている。アメシストはギリシャ語で『酒に酔わない』という意味があり、転じて『悪い事から身を守る』という意味になった


ギリシャ神話でニンフのアメシストが酒神バッカスに襲われた時、女神ディアナが彼女を宝石のアメシストに変えこの世で1番美しい紫色を与えたと言われている



「グロリア様、怪我の具合は…」


「問題無い。日常生活に支障は無いよ」


「…彼らの特訓には?」



シャドウの不安そうな疑問にグロリアは答えず、口元に張り付かせた笑みを更に深くした



「沢田綱吉はなかなか良い男のようだ。ジョットは寸前で拳を鈍らせたが、あいつは真っ直ぐに打ってくれたよ」


「それだけ余裕が無かったという事では?手加減できるだけの冷静さに欠けていたのですよ」


「…それは違うよ、シャドウ。沢田綱吉には迷いが無かった、それだけだ。“魔女”であるわたしにも勝てると、いや負けるはずが無いとあいつは信じていた。奴は本気だったのだよ」


「…しかし、どんな理由があろうとグロリア様を傷付けるなど許されません」


「この程度の傷、時間操作さえ止めればすぐに治せる。大した問題ではないよ」


「この先、更なる怪我を負う可能性も…」


「勿論無いとは言いきれない。あいつらも本気だろうしそれなりの覚悟はしておかないとね。

しかしこれはわたしがやり遂げなければならない事。ジョットとの約束でありわたしの贖罪であり死ぬ前に片付けておかなくてはならない罰なのだよ。


シャドウが気負う必要は無い。おまえはあいつらがここで少しでも良い環境で過ごせるように尽力してやってくれ。わたしでは駄目だからな、シャドウにしか頼めん」



そっとシャドウを抱き寄せたなどは、少しごわついた毛並みを優しく撫で額に小さくキスをして身体を離した



「…少し休む。2・3時間経ったら起こしてくれ」


「畏まりました。…どうか、良い夢を」



バイオレット・フィズを綺麗に飲み干したグロリアは、気を効かせたシャドウが夕食前に起こしに来るまで深い眠りについていた




















「…なあ、リボーン。グロリアが言ってた、“超直感はジョットにグロリアがあげた”って本当なのかな…」


「オレに訊くな。訊くなら魔女に訊け」


「だってグロリアに怪我させちゃったし、部屋もどこだか分かんないし」


「チッ、グダグダだれてるくらいなら夕食の時にでも訊きゃ良いだろーが。オレは知らねーからな」



帽子を目深に被りツナとの会話を打ち切ったリボーンは、そのまま目を閉じたしまった



朝食後すぐに演習場に行ったというのに、終わって部屋に戻ったら既に日も傾き始める時間だった。勿論窓の外は相変わらずの暗闇だが



仕事も無く時間を持て余してしまった獄寺は調査と銘打って城中を探索すると意気込んでどこかに消えて行った。ちなみに面白そうだと山本もそれに着いて行っている


ツナ達の中で1番城内の構造を理解している雲雀は書物庫に行くと言っていたし、相変わらず元気の無い骸は再び部屋に籠ってしまった


やる事の無いツナはこうしてリボーンの部屋を訪れちょっかいを出しているのだが、どうやら元家庭教師のヒットマンはあまり乗り気ではないらしい



「…グロリア、怪我大丈夫かなぁ」


「本人が自力で治せるっつってんだ、放っとけ」


「でもさ、少なくとも1週間はあのままなわけじゃん。その上この先リボーンや雲雀さんも特訓するのに無傷でなんて無理だろ?いくら俺らより早く治せるからって、痛くないわけじゃないし…」



ぐだぐだと言い下がるツナにうんざりしたのか、大きく嘆息したリボーンはジロッとツナを睨み付けた



「あの魔女が痛みを感じていようがいまいが、そんな事どーだって良いんだよ。あいつはボンゴレじゃねーんだ、おめーが心配してやる必要はねぇ。


あいつがはっきり味方だと明言しない限り、油断はできねぇ。何を企んでるのかは知らねーが、利用できるもんは全部利用しろ。魔女もそう言ってただろ」



リボーンの言う事は尤もな正論で、ツナは言い返せなかった。しかし納得ができない。それではツナの気が治まらないのだ



「…ツナ、おめーはまだ優し過ぎる。ファミリーと女を大事にするのは重要だが、敵に情けを掛けるな。情が移ってから裏切られて辛いのは、おめーなんだぞ」



説き伏せるようにそう言われて、ツナは今度こそ黙るしかなかった


グロリアの目的が分からない以上、気を許す事はできないのだと。ツナもそれが理解できないわけではないのだ



ただ、敵か味方か分からない相手を、意味も無く傷付ける事がやるせないだけで




†Before††Next†

7/20ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!