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孤独な月を 神は笑った
SEI



「さて、おまえの弱点は何だと思う?」



食後に軽く身体を休めてから、ツナ達はシャドウの案内で演習場に来た。屋根付きのコロシアムといった作りの演習場は、城の中とは思えない程の広さがある


円形に突き上がった観客席には、雲雀をはじめとする全員が座っていた。やはりグロリアの事が気になるのか、暗い顔をしたままの骸もそこに居る



「俺の、弱点…?」


「わたしが答えを開示してしまう事は容易いが、それではおまえの為にはならないだろう?自分で考えてみろ、敵に悟られる前に自分で気付けなければ意味が無いぞ」


「弱点、っていきなり言われても…」



そうツナが呟いた瞬間、グロリアが動いた。ロングドレスの裾がはためく様すら見えない程、早く


ツナがグロリアが移動した事を認識したのは、既にグロリアの凶器が喉元に突き付けられた後だった



「…っ!?」


「十代目!!」



目を見開いて驚くツナを援護しようと、ダイナマイトを取り出し1歩前に出た獄寺を、隣に立っていたリボーンが無言で制した



「リボーンさん…?」


「…今のは前戯だ。あいつに殺気は無ぇ」



冷静にそう分析しながらも、リボーンの表情は苦虫を噛み潰したかのように渋い



嘲るような笑みを口元に浮かべたグロリアは一旦身を引き、鋭利に伸びた左手の爪を元の長さに戻した



「…さて沢田綱吉。今何故、おまえは反応できなかった?」


「それは、グロリアが速すぎて…」


「速さなど関係無い。スピードのせいだと言うのなら、もし相手がわたしではなく雲雀恭弥や六道骸ならおまえはどうした?」


「雲雀さんや骸なら、多分超直感で読めるはずですよ」


「そう、それがおまえの弱点なのだよ」



グロリアとしては幾らか手順を踏んで分かり易く説明したつもりなのだろうが、しかしツナには全く意味が分からない


超直感で相手の動きを察知する事が弱点だと言いたいのだろうか。だが先読みできる能力が弱点だなんて矛盾している、とツナは思った



「おまえの持つ超直感の弱点は、それが人間…いや、生き物にしか働かぬ事だ。数年前のヴァリアー戦でゴーラ・モスカに超直感が効かなかったように、この先おまえが生き物以外に対峙した時負けるようでは困るのだよ」


「何で、リング戦の事を…?」


「わたしに分からない事は無いよ、沢田綱吉。ゴーラ・モスカならまだ良いが、例えば爆弾処理で当たりのコードを選べるか、監視カメラの死角を如何に早く見付けられるか、おまえにはヒトを超越した物を求められる。


その為には今のままの超直感では役不足だ。わたしが鍛え直してやる。わたしは“魔女”、ヒトにも属さずモノにも属さぬ存在だ。わたしの動きを読めるようになれば、おまえは今の超直感を越えられるだろう」



ひゅんっとグロリアの左手の爪が細く長く伸びる。途端に辺りを包む張り詰めた空気。その場に居る誰もが、グロリアが本気である事を悟っていた



「さっきは手加減してやったが次は無いぞ。死ぬ気にならなければ死ぬだけだ。死にたくなければ今の超直感を越えてみろ」


「待ってよ、グロリア。なんでそんなに超直感に詳しいんだよ!?」



今にも襲い掛かってきそうなグロリアからじりじりと距離を取り、ツナは青くなった


経験と本能で分かる。グロリアは本気で自分を殺そうとしている。殺らなければ殺られる、実戦さながらの痛い程の殺気だ





「…ブラッド・オブ・ボンゴレ。超直感は、わたしがジョットにあげた能力なのだよ」


「え…?」



予想外な答えに一瞬気を抜いたツナの隙をグロリアが見逃すはずもなく、一気に距離を縮め左腕を振るった



「っつ…!?」



空気の動きでそれを察知したツナはギリギリでかわすが、わずかに頬に爪が掠め皮膚が避けた



「油断してると死ぬぞ」



耳元でグロリアの声が聞こえたかと思えば、目は真正面にその姿を捉えている。五感が全く役に立たない事を悟り、ツナは目を閉じ感覚を研ぎ澄ませた


グロリアの爪が空気を裂き震える振動、ドレスの裾がわずかに床を擦れる音、微かに感じるグロリアの甘い香り。全ての感覚を集結しグロリアの動きを寸での所でかわす


が、やはりグロリアの方が動きが速く上手なようで、浅く小さくではあるがツナの体にはいくつもの傷が付いていった



「…どうした、沢田綱吉。息が上がっているぞ?」



グロリアに指摘されるまでもなく、ツナは自分の身体がいつに無く疲弊していく事に気付いていた


いつもならば超直感のお陰で自己の負担を最小限に闘う事ができるが、今はそうはいかない。息を吐く間も無く次から次へと繰り出されるグロリアの攻撃に、それを受け止める事はおろか避ける事で精一杯なのだ



眼球を抉ろうとした一撃を膝を折る事で回避し、しかし次の脇腹への攻撃を避けられない


身体を反らせた所で確実に急所を狙ったグロリアの爪は肉に食い込む事は必至。ならば、とツナは爪が皮膚に食い込んだ瞬間その手首を掴み逃げられないようにしてから、炎を灯した右手をグロリアの腹に向けて打った



「グロリア…!!」



叫んだのは骸の声だったか。集中し過ぎていたツナが手加減できるはずもなく、その拳が鳩尾にめり込むのが分かっても攻撃の手を止められなかった


腹に食らった一撃にグロリアは一瞬息を詰めたが、しかしすぐに体制を建て直した。その様子を至近距離で見ていたツナは、次の一手が頭蓋を狙うと読んだ


グロリアの左手がこめかみを捉えるより先に、ツナは右手を掴み背負い投げていた



「あっ…」



まさに本能的とも言える行動で、ツナが正気を取り戻したのはグロリアが強[シタタ]かに背を打ち付けた後だった



「ごっ、ごめん、グロリア!!」


「…良い、触るな」



助け起こそうとしたツナの手を払い、グロリアは自力で立ち上がった。しかしその表情は固く、無意識だろうが右手を腰に当てている



「…今ので感覚は掴めただろう。まだ不安定だがその内モノにできるはずだ」


「う、うん。ありがとう…」


「礼を言われる程の事ではない。…わたしは部屋に戻る。おまえ達は屋敷内に居るなら好きに過ごせ」



言うが早いか、グロリアは戸惑うツナを残して霧のように消えてしまった




†Before††Next†

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あきゅろす。
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