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孤独な月を 神は笑った
CINQUE



翌日。全員でシャドウの作った朝食を食べていると、最後にやって来たグロリアがその様子を一瞥して言った



「食べ終わったら1階の演習場に来い。案内はシャドウがする」



昨日言っていた修行が始まるのだろう。グロリアがどんな訓練をつけてくれるのか一切予測できないツナ達は若干困惑しながらも頷いた



グロリアが外の時間を止めているのは事実のようで、朝になっても城の外は夜のままだった。月は変わらず暗闇を照らし、静寂に包まれている



「グロリア様、薔薇はこちらにお持ちしますか?」


「ああ、頼んだよ。それとミルクティーを」



畏まりました、と一礼して出て行くシャドウを見送りながら、グロリアは自分の席に着いた


目の前にあったフルーツ籠から林檎を取り出し、軽く上に投げて皿でキャッチする。投げる瞬間は丸かった林檎が、皿に着地した時は綺麗に向かれてカットされていた


林檎を投げた右手は肩まである黒い長手袋で覆い隠されている。恐らく昨日の傷があるせいだろう、とその原因となった獄寺は小さくなった



「沢田綱吉、昨夜は良く眠れたか?」


「一応は、」


「そうか、なら良い。特訓はおまえから始める事にしたよ。別に誰からでも良かったが、ここはボスらしくまずは手本となってもらおうか」


「俺の特訓って、一体何を…」


「それはやってみてのお楽しみだ。まあ、精々死なないように頑張るんだな」



グロリアがそう鼻で笑って言うと、その言葉に獄寺が異常な反応を見せた



「ちょっと待て、十代目に危険が及ぶなんて許さねぇぞ」


「何を言っている。生半可な気持ちで越えられるものなど何も無いぞ」


「だったら十代目は後回しにしろ。てめぇの能力が分からない以上十代目を先発でやらせるわけには、」


「待って、隼人。1番目は俺で良いよ。誰が最初でも変わらないって」


「しかし…」


「背負うリスクは皆平等。覚悟と実力がなければ死ぬだけだ。獄寺隼人、わたしの特訓で死ぬような輩に、ドン・ボンゴレが務まると思ってるのか?」



尤もらしい正論を述べたグロリアに獄寺が反論できるはずもなく、悔しそうに口をつぐんでただグロリアを睨み付けた



そこにカラカラと台車を押してシャドウが現れる。台車の上には今しがた摘んできたばかりと思しき薔薇が山のように乗せられていた



「有難う、シャドウ。食事の後にこいつらを演習場まで案内してやってくれ」


「はい。皆様ですか?」


「来たい奴だけで良い。やる気の無い奴も居るみたいだしな」



ちらっと横目で骸を見たグロリアは、それ以上気にした様子も無くシャドウの押す台車へと歩み寄った


そして右手を長手袋から抜き、薔薇に翳す。するとみるみるうちに薔薇は萎[シオ]れ、あっという間に枯れてしまった



「…シャドウ、下げてくれ」


「はい」



赤く焼け爛[タダ]れたままの右手をしばらくじっと見つめてから、グロリアは何事も無かったように再び手袋を嵌めた


そのままシャドウが引いた椅子に座り、湯気の立ち上るロイヤルミルクティーを口に含む



「……その傷、直せねぇのか?」



ぽつりと、獄寺が呟くように問い掛けた。いくら長手袋で隠しているとはいえ、やはり怪我を負わせてしまった事を気にしているのだ


何でもできるグロリアなら、火傷くらい簡単に直せても何ら不思議ではない。むしろ薔薇という“食事”を終えた今だからこそ直せるだろうと獄寺は思った



「平時ならば直せるが、今は無理だ」


「なんで、」


「時間の操作というのは非常に高度な術式でね、わたしでもそう簡単に使えるようなものではないのだよ。1日程度なら問題無いが、いくら薔薇を多く摂った所で限界はあるからな。時間操作と治癒能力を同時には使えないのさ」


「そう言えば君、前に大きな魔力を使う時はバンダナを外すって言ってたよね」


「ああ。この目はなかなか便利でね、厄介でもあるが複数の能力を同時に使うときは非常に役に立つんだよ」



先程剥いた林檎をシャリシャリと噛み砕きながらグロリアが言う。ふと、何か引っ掛かるものを感じた骸は、それまでグロリアから顔を背けていたにも関わらずその疑問を口にしていた


いや、訊かずにはいられなかったのだ。胸を締める嫌な予感が、瞬く間に大きくなっていく気がしたから



「…グロリア。ではもし、この特訓で貴女が大怪我を負ったとしたら…」


「怪我の程度によっては命の危険はあるが、わたしはそう簡単には死なん。首を落とされようが四肢をもぎ取られようがわたしは生き永らえるぞ」


「そう、ですか…」



グロリアはそう言うが、やはり骸は心配だった。林檎を切った時と薔薇を食べた時以外−−つまりティーカップと林檎を刺すフォークは左手で使っているのだ。昨日までは右手で使っていたはずなのに



いくら死なないからといって、時間操作の力を止めてから直せば良いとしても生活に不都合が生じるのは必須なのだ


骸の心配に気付いているのかいないのか、グロリアはそれ以上何も言わず席を立った



「沢田綱吉、1時間以内に演習場に来い」



そう言い残して、グロリアは悠然とダイニングを後にした




†Before††Next†

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