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孤独な月を 神は笑った
TRE



「おまえ達には各々重大な弱点がある。わたしはそれを克服する手助けをしてやろう。全員が弱点を克服できたら城から出してやる。つまり1人でも克服できなかったら永遠に城から出られないと思え」



そう告げるだけ告げてグロリアはツナ達を部屋から追い出し、自分は疲れていると言って寝てしまった



「皆様、城内はご自由に使って頂いて構いませんが、鍵の掛かった部屋と3階、地下には立ち入らないで下さいませ。

主は滅多な事では怒りませんが、機嫌を損ねればそれ相応の罰が下る事を覚悟して下さい」



2階に1室ずつ部屋を与えられ、ツナ達ももう寝る事にした。気付けば辺りは真っ暗で、昼間の戦闘の疲れがどっと押し寄せて来る


シャワーを浴びる事も億劫で、ツナはふかふかのベッドに倒れ込んだ。スプリングの反発と共に軽く香る不快ではない甘い香りは、アロマオイルを染み込ませてあるのだろう



グロリアが何を考えているのかが分からない。ボンゴレに味方するわけではないと言っていたのに、こうして力添えする理由は何なのだろう


初代ジョットとの約束があるから?そんな何百年も前の口約束を律儀に守る意味があるのだろうか


仮にそうだとして、グロリアには何のメリットも無い。ジョットが何を払ったかは知らないが、グロリアがこの抗争に加担する程の価値があるものとは一体何なのか


そもそも何故グロリアだったのだろう。未来を託すのは未来に生きている相手でなければならないとはいえ、相手は“魔女”だ。賭けだとしても余りにも危険過ぎる



考えれば考えるほど坩堝[ルツボ]に嵌まっていく気がした。きっと答えを知っているのはグロリアだけなのだろう。どんなにツナが頭を捻った所で分かるはずなどない



疲労が身体を侵食し始め、ツナはゆっくりと目を閉じた。ややこしい事と今後の事を考えるのは明日にして、今日はもう寝よう


ツナのとろけかけた意識が深く沈み掛けた時、



「うわあぁぁぁっ!!」



闇夜を切り裂くような悲鳴が聞こえ、一気に現実に引き戻される



「……隼人?」



あの悲鳴は聞き慣れた獄寺の声だった。しかし何故、あの獄寺がこんな時間に悲鳴を上げたのだろう



嫌な胸騒ぎがして眠い身体に鞭打ち、ツナは部屋を出た。蝋燭が等間隔に掛けられた廊下は仄暗く、回りを見渡すのは難しい


しかし気配と直感で、ツナは廊下の突き当たりに誰か居ると感じ取っていた



「隼人、どうかしたの?」



大きな窓が丸い満月を切り取った空間に、山本がポカンと口を開けて突っ立っている。獄寺はどこに、と視線を巡らせたツナは、山本の目線の先を追い唖然とした


獄寺は窓の外に居た。飛び降りようとしたのか、中途半端な格好で宙に浮いて



「…おいツナ、さっきの悲鳴はなんだ」



わらわらと集まるリボーンや雲雀達も、空中に停止した獄寺を見て眠気が吹っ飛んだようだ



「と、とにかく、隼人をこっちに引き戻さないと」



何故獄寺が空中に浮いたまま停止しているのかは不明だが、いつ落下するかも分からないのにこのまま放っておくわけにもいかない


間違って落とさないように、左右からツナと山本でそっと手を伸ばすと、


−−バチィッ!!



「うわっ!?」



感触的には静電気のような、しかし音と火花は何万ボルトもの電撃が触れた



「…なんだ、これ?」



どうやら城の外は何か目で見えない防護壁のような物で守られているらしい。そこに真っ正面から飛び込んでしまった獄寺は、何の絡繰か空中に縫い止められてしまったようだ



「どうする、ツナ」


「どうって…」


「馬鹿だね、綱吉。こんな事ができるのはあの女しか居ないだろ」



困惑するツナと山本を他所に、雲雀はくるっと方向転換し歩き出した



「雲雀さん、どこに…」


「あの女の所。行き方知ってるの僕だけでしょ」



そう言って1人暗闇へと消えた雲雀は、自分の記憶にあるグロリアの部屋へのルートを辿った


この城は壁や柱は勿論階段までもがグロリアの思うがままに移動するようだが、先日訪ねて来た時と変わってはいない



迷う事無く最上階のグロリアの部屋に辿り着いた雲雀は乱暴に数回ノックする



「グロリア、居るんだろ。開けて」





しばらく待ってみても中から返事は無い。獄寺の悲鳴で起こされてしまい仕方無くこうして呼びに来てやったというのに、出て来ないだなんて何様のつもりだろう


眠くて元から悪かった雲雀の機嫌が更に急降下する。鍵の掛かっていなかった扉を乱暴に開け中に踏み込むと、いつもはキャンドルが辺りを照らしているのに今は真っ暗だった



グロリアお気に入りのカウチにその姿は無く、ドアを隔てた寝室の大きなベッドの上にグロリアは居た



「ちょっと、起きなよ。何があったら気付いてるんでしょ」



全てを見透かすグロリアが、獄寺が脱走を謀ると気付かないはずが無い。分かっていて何の忠告もしてやらないのは彼女らしいと言えばらしいのだが、やはり気に食わなかった


雲雀の声に一切反応しないグロリアにいい加減我慢できず、雲雀はトンファーを取り出し威嚇した



「…あと5秒以内に起きないと咬み殺すよ」



ピリピリした殺気を痛い程飛ばすと、流石にグロリアも気付いたのか眠そうに身動いだ


そしてゆっくり赤と青の瞳を覗かせ傍らに立つ雲雀を眼中に納めると、心底怪訝そうな目で雲雀を見た



「…おまえ、誰だ?」




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あきゅろす。
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