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孤独な月を 神は笑った
DUE



まさか池に突き落とされるとは夢にも思わず、水に落ちたのだと理解したのは呼吸ができなくなってからだった


ひんやりした水温が心地好い。しかしうっすら目を開けると自分の周りだけがわずかに赤くなっている事に気付く


これは血だ。殺した相手の返り血、己から流れ出る鮮血、ついさっきまで殺し合いをしていたという揺るぎない証拠なのだ



ザバアッと水面に顔を出すと、そこは先程まで居た戦地ではなく見慣れぬ湖の中程だった


キラキラと陽光を反射する水面と樹々の蒼さが何とも幻想的な、とても綺麗な湖だ



「十代目、ご無事ですか」



同じく池に落ち湖へと浮上した獄寺が水を掻き分けてツナの元へと近付く。ふと辺りを見渡すと、少し離れた所にかなり仏頂面の雲雀も居た



「俺は平気だよ。…グロリアは?」



湖に浮いているのはツナ達3人だけで、こんな事をした張本人であるグロリアの姿が見当たらない



「わたしならここだよ」



頭上から滑らかな声がして自然と見上げると、グロリアは逆光の中で水面上に立っていた



「血を十分に洗い流してから上がって来い。城で待ってるぞ」



そう言い残してグロリアは水面を歩いて林の中へと消えて行った。グロリアのヒールが踏んだ水面には確かに波紋はできていたのに、しかし沈む事無く歩いて行った


グロリアの言葉から推察すると、ここはグロリアの城近くの林の中なのだろう。こんな湖があるとは知らなかったが、グロリアが自分の足で歩いて行った所を見るとその可能性が高い



「…十代目、どうしますか?」



戦闘が終わったのだからすぐにでも本部に帰還し報告しなければならない。相手の目的も未だ分からず、更にその戦力さえ不確かな今余計な事に時間を割く余裕は無い


しかし、あのグロリアがそんな状況である事を知らないはずがないのだ。それにも関わらずこうして呼び出したという事は、何かしらの用事があると考えてまず間違い無いだろう



再度水中に視線を戻すと、赤く濁っていた水は既に無色透明に戻っている。まるで血に汚れた体が洗い清められたようだ、とツナは思った



「…どっちみち1度城に戻らないと道も分からないしね。服も乾かしたいし城に行こうか」



陸に上がり水を多分に含んで重くなったスーツを脱いで絞る。シャツも濡れているが半分どうでも良くなりそのままにしておくことにした




















「お召し物はこちらへ。お帰りになるまでに乾かしておきます」



城に着くなり現れたシャドウがツナ達の衣服を全て剥ぎ取り−−大柄なツキノワグマである彼は文字通り“全て”を剥ぎ取った−−タオル地のガウンを羽織らされていた


素肌に心地好いガウンの肌触り。それはこのガウンが高級品である事を表していた



エントランスから城に入ったというのに、雲雀達が今居るのはグロリアの自室だった。とは言ってもグロリアはどこにも見当たらない


城に入ってすぐがあのグロリアの部屋になっているというのは、また彼女の仕業なのだろう



「…あいつはどこ」


「主はお召し替え中ですのでしばらくお待ち下さい」



一礼して濡れたスーツと共にシャドウは静かに出て行く。部屋に残された3人はグロリアお気に入りのカウチソファに座り部屋の主が現れるのを待った



「…十代目、今回連れて行った奴らは……」



静寂は人の思考を消極的にする。キャンドルの灯りも今日は少なくいつもよりほの暗い



「……グロリアは、全員死んだって」


「でも、俺達で確認したわけじゃ…」


「馬鹿だね。あの女が僕らに嘘を吐いて何の得があるって言うんだい?今回は僕らが甘かった、あいつはそう言いたいんだよ」


「その通り。おまえ達はまだ餓鬼だ。己に課せられた責を誤認している、世の中は愛と希望で救えると思っている、自分達は正義の英雄[ヒーロー]になれると夢見ている、どうしようもなく甘えた糞餓鬼だよ」



漆黒のドレスから真っ赤なドレスへと着替えたグロリアが、城に居るというのに白いバンダナを目元に巻かずに入口にもたれていた



「先程呪われた赤ん坊に連絡した。他の守護者を連れて我が城へ来いとな」


「…なんで、リボーン達を?」


「おまえ達に任せているとボンゴレに明るい未来は無いようだ。まぁ元々どす黒い未来だったがな。ジョットに対価を貰い任されている以上わたしも傍観するわけにもいかないし、わたしが教育し直してやる」


「君に教わる事なんて無いよ」


「ほう、これでもか?」



グロリアの居た入口から雲雀達の座るソファまで距離にして約5メートル程。雲雀の身体能力を以ってしても移動に数瞬はかかるその距離を、グロリアは瞬きをするよりも早く移動して見せた


ソファに座る雲雀の腹部に赤いピンヒールの足を乗せ、驚いて仰け反った雲雀の首元にシルバーラメで塗られた手刀を突き付けている



「自分の実力の理解ぜず驕り昂るとは愚者のする事だよ、雲雀恭弥。わたしはわたしの能力を使わずともおまえ達如き簡単に倒せる。何なら試してみるか?」



うっそりと笑うグロリアの口端に対し、細められた赤と青の瞳は決して笑ってなどいない


グロリアに直接手を上げられたわけではないが、それを体験していないツナ達でも分かる。自分達よりもグロリアの方が遥かに強い、と



「…なんなの、君」


「わたしとおまえ達の絶対的な違いは経験の差だ。産まれ持った潜在能力、身体能力、精神構造、全てにおいておまえ達は幼すぎるのだよ。

一般人として生きるならそれでも構わんが、おまえ達はマフィアとして生きると決めたんだろう?それも裏社会の頂点に君臨するボンゴレとして。ならば生き残る術を学べ、そう易々と死なれてはわたしが困る」


「なんで君が困るんだい?そもそも君は関係無いはずだ」


「そうだな、できる事ならわたしもおまえ達には関わりたくなかったよ。しかしジョットとの約束がある。放っておく事はできないのだよ」



コンコンと小さなノックの後にシャドウが姿を見せた。背後には屋敷で待機していたリボーンや山本、骸の姿もある



「おまえ達には今日からしばらくここで生活してもらう。文句は言わせん、黙って従え」



赤と青の瞳に睨まれて反論できる者など居るはずも無く、ツナ達はグロリアの城に世話になる事になった




†Before††Next†

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