[携帯モード] [URL送信]

孤独な月を 神は笑った
SEI



『越えられぬものはあるか』と彼は問うた


わたしは『死線だけは越えられぬ』と応えた



『恐れるものはあるか』とまた問うた


少しも悩む事無く『わたしはわたしが恐ろしい』と応えた



『望むものは総て手に入ったか』と最後に問われ


わたしは笑顔で『おまえが居ればもう何も要らないよ』と応えたのを覚えている
















「…、グロリア?」



ツナに肩を揺すられ、グロリアははっと覚醒した。昨日の宣言通りボンゴレ本部に赴いたグロリアは、会議室に案内されている


グロリアの目の前には昨日獄寺が奮闘して作った抹茶のババロアがカクテルグラスに入れておいてある。濃厚な黒蜜が掛けられ食べられるのを待っているかのようだ



「大丈夫ですか?どこか具合でも…」


「…いや、問題無い。少し物思いに耽ってしまってね」



心配そうなツナに苦笑で返し、グロリアは傍らのハンドバッグから1枚の紙を取り出した


そしてそれを投影機も使わず、大きなスクリーンに映し出して見せる



「沢田綱吉に依頼された件だが、今のボンゴレはなかなか敵が多いようだな。

伝統・格式・規模・勢力の総てにおいて、他のどのファミリーとは別格なのがボンゴレファミリーだと認識していたが…、どうやらボスの力不足とみえる」


「なっ…!!テメェ、十代目を馬鹿にするなんて俺が許さねぇぞ!!」


「馬鹿にしてなどいないよ、獄寺隼人。わたしは事実を言ったまでだ」


「ふざけんじゃねぇ!!十代目は立派なお方だ!!」


「本人が立派かどうかなんて関係無い。要はこれだけ巨大な組織の頂点に君臨し、全てを見透かす力を持ち、尚且つ全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する、崇め恐れられる絶対的な存在となれるか。それがドン・ボンゴレだ」


「十代目は十分…」


「その役を担っていると?ならこの敵の多さは何だ。ボンゴレの力が、存在が、薄れて来ている証拠だろう。ボス然りおまえ達守護者もだ。

これはごっこ遊びではない、れっきとした“マフィア”という業なのだよ。栄えるも滅びるもおまえ達の勝手だが、このままではただの茶番劇で終わるだけだぞ」



グロリアが映し出したスクリーンには、ざっと百近い敵ファミリーの調査結果が載っていた。各々の戦力や武器の数などボンゴレに比べたら所詮微々たる物だが、問題はその数の多さだった


塵も積もれば何とやら。奴らが徒党を組んでボンゴレに仇成した場合、ボンゴレ側の痛手も相当なものになるだろう


予想以上に大事だったこの一件に誰も何も言えず、会議室内はしんと静まり返る



グロリアに突き付けられた事実はあまりに重く、そして冷たかった。歴代のボンゴレがどんなだったかなんて知らないが、グロリアの口振りからするとこんな失態は十代目になって初なのだろう



「…俺達は、どうすれば…?」



守護者も元家庭教師も見守る中、ツナはグロリアに訊いた。ツナの答えがボンゴレの答え。分かっていても、1人で答えを出すにはあまりにも責が重い



「それをわたしに訊くか。言っておくがわたしはジョットに頼まれただけであって、ボンゴレに味方するわけではないぞ?」


「それでもグロリアはこうやって俺の頼みを訊いてくれた。今は信じても良いと思うから」


「…やはり甘いな。その甘さがこの結果を招いたのだ」


「それでも良いよ。俺は、甘くて駄目でマフィアのボスなんて全然向いてない。そんなの10年も前から知ってるよ。

…でも俺は、ボンゴレ十代目になるって決めたんだ。俺で足りない部分は、守護者達が補ってくれるって信じてるから」



真っ直ぐで大きな瞳がグロリアを射抜く。ツナはグロリアが臆すにはあまりにも小さく非力な存在だが、しかし数年後の彼ならきっと、あの初代を越えられる程に成長しているのだろう



1分、2分と無言の睨み合いが続く。白いバンダナで隠されたグロリアの瞳が、鋭くツナの中を隅々まで見透かしているようだった





「…良いだろう。根拠は無いが覚悟だけはあるようだ。ジョットに代わり、その覚悟とやらを見届けさせてもらおう」



ふうっとグロリアが息を吐き、会議室内の空気が一気に緩和される



「どうせ血を流さずに解決する糸口を模索するつもりなんだろう?だったら少しでも早く連中の目的を見付け出す事だ。

それで丸く収まるのなら奴らの望む物をくれてやれば良いし、納得できないのならぶつかれば良い。それを決めるのはおまえ達だよ」



グロリアが調査書を軽く叩くと、スクリーンに映っていた映像が消える。それと同時に全員の目の前に1枚ずつ調査書が舞い降りた



「そこに載っているのは今現在ボンゴレに反感を持つ諸ファミリーだ。やつらに同調する者が居れば更に敵は増える。そうなる前に何としてでも阻止するんだな」


「…おめーは、その目的とやらも分かってんのか」


「当然だろう、呪われし赤ん坊よ。知りたければ教えてやらん事も無いが、これ以上の助言は対価を貰う」


「グロリアには、先の未来も見えているんですか…?」


「ああ。この一件が終わった時、どちらが生き残りどちらが死ぬか、わたしには分かる。しかし結果の見えた喧嘩など面白味に欠けるだろう?勝つと分かっていて本気にならないの然り、敗けると分かっていて本気になるはずが無い。

そして未来なんて不確かなものは、いつどの決断で変化するか分からないのだよ」



カタッと軽く椅子を引き摺り、グロリアは席を立った。言いたい事は全て言い、あの城へ帰るつもりなのだろう


随分重い話をしていたというのに、グロリアの前に置かれたカクテルグラスはいつの間にか空になっていた





「…1つ、予言をしてやろう」



全員の視線がグロリアに集まる。口元に笑みを張り付かせたグロリアは、決して目だけは笑っていないであろう事を匂わせていた



「全ての事が片付いた時、この中で1人は確実に死んでいる。これはどう足掻いても変えられない、定められた事だよ」






誰が死ぬかも、既にこの時決まっていて



そしてグロリアだけがそれを知っていたのだろう



知らなかったツナ達は、ただ“仲間”を失わない為に必死で、




†Before†

6/6ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!