孤独な月を 神は笑った
CINQUE
「格納庫にある武器と戦闘要員の数だけで良いんだな。それくらいなら明日までに紙にまとめておく」
「お願いします。明日の昼くらいに雲雀さんに取りに来てもらうので」
「…何で僕なわけ。骸で良いだろ」
「だって骸、ここの所鬱ぎ込んでるし。できればそっとしておいてやりたいじゃん」
エントランスでグロリアの見送りを受け、ツナは雲雀の運転する車に乗り込む
あの後雲雀がグロリアから幾つか本を貰い、車に積み込んだ所で帰る事にした
正直な話、ツナがボンゴレ本部を長時間空ける余裕は無かった。しかしグロリアから直々に指名されたとあっては従わざるを得ず、リボーンの反対を押し切ってこうしてやって来たのだ
グロリアの城に居たのは時間にして約1時間。大した事無いと言えば大した時間ではないのだが、しかし一瞬で戦局がどう転がるか分からない世界。油断は禁物だ
「…明日はわたしがボンゴレ本部に行こう。そのくらいはできる」
「え、良いんですか?」
「ああ、そっちはそっちで色々と忙しいんだろう?生憎わたしは特にする事も無くてね」
「そうですか、じゃあお願いしようかな」
助手席からグロリアを仰ぎ見ながら、ツナは笑った。なかなか扱い辛いと思っていたが、こうして付き合ってみるとそれ程おかしいわけではないのだ
そもそもボンゴレには爆弾魔や戦闘狂やパイナポーが居るのだから、今更ツナが“魔女”を受け入れられないはずがない
「では明日の午後、本部に行くよ。獄寺隼人には抹茶のババロアが食べたいと伝えておけ」
苦笑いを漏らしたツナを乗せた車が小さくなるのを最後まで見送り、グロリアは城へと戻った
あと数ヶ月も棲む事は叶わない、かつてとある国の王族が住んでいた城に
「抹茶のババロア、すか」
いくらツナの頼みだとは言え、獄寺は毎日こうしてあの魔女の為にお菓子を作らなければならない事にいい加減うんざりしていた
「うん、グロリアが食べたいって。できる?」
「抹茶さえあれば作れると思うんすけど」
そして最近は作る物にグロリアが注文を付けてくるようになった
基本的に手間の掛からない、面倒臭くないものを獄寺が選んで作っていたのだが、グロリアの要望は何故か毎回それを悉[コトゴト]く裏切ってくれるのだ
ババロアは材料を混ぜて冷し固めるだけだが、そこに抹茶が入ると失敗しやすい
ツナから直接頼まれているのでミスなんて許されるはずもなく、時々獄寺はわざとグロリアが面倒なメニューを選んでいるのではないかとさえ思ってしまう
「そっか、じゃあ頼んだよ。明日はグロリアがこっちに来るし、期待してるからさ」
ポンッと軽く肩を叩き、ツナは獄寺を残して厨房を出て行く。1人残されてしまった獄寺は、ツナの気配が完全に遠ざかった所で盛大に溜息を吐いた
ツナに期待されるのは勿論嬉しい。しかし、どうせならもっと他の事で期待して欲しいのが本音なのだ
丁度夕飯の仕込みの途中だった獄寺は一旦手を止め、引き出しを片っ端から開け抹茶を探す。確かどこかにあった気がするが、もし無かったら急いで買わなければならない
「抹茶、抹茶…。あー、こんなトコにあったのか」
引き出しの奥に他の材料に埋もれていた抹茶の袋を見付け、獄寺はほっと一安心する。分量もババロアくらいなら何回か作れそうな量は十分にある
「ったく、なんでオレがこんな事を…」
ぶちぶちと文句を言いつつも獄寺はちゃんとツナの期待に応えるべくババロアを作り始めた
全くなんでこのオレが、オレには何の利益も無いのに、と不平不満を口にしながら
『−−でも全く無利益ってわけでもねぇか。なんか骸骨のピアス貰ったし』
先日初めてグロリアに会った時に、ガトー・ショコラの礼だと貰ったピアスは、普段使われる事無く部屋の装飾品と化していた
グロリアは着けたいと思った時に着ければ良いと言った。その意味は今一良く分からないのだが、今は着けていなくても良いと思うのだ
あの魔女がケーキの礼に寄越したピアス。ただのピアスだとは思えないが、しかし獄寺が見る限りいつまで経ってもただのピアスでしかなかった
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