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孤独な月を 神は笑った
QUATTRO



翌日、グロリアの要望通りツナは雲雀と共にグロリアの城へ向かった。本来来るはずだった骸は行きたくないと駄々を捏ね、仕方が無いので屋敷に置いて来た


グロリアと何があったか一応聞いたが、しかしそれを知った所でツナ達はどうしようもなかった


これは骸とグロリアの問題なのだ。骸の気持ちの整理がつくまで、そっと見守ってやるのがツナ達にできる精一杯の事だった



「ようこそいらっしゃいました、沢田様、雲雀様。主が部屋でお待ちです」



ウサギだった頃よりも数段声が野太くなったシャドウに案内され、ツナと雲雀はグロリアの部屋へと向かう


その道程は昨日雲雀がグロリアに連れられて通った道とは全く違うルートだった



「こんにちは、グロリア。ご希望通り、隼人にチョコレートケーキを作ってもらったよ」


「ああ、ご苦労だったな」



全く別の道を通ったとしても、辿り着く部屋は同じだった。あのカウチに座るグロリアはいつもと変わらず、優雅な笑みを称えていた



生地にもクリームにもたっぷりとチョコレートを使用したケーキの為に、今日は甘いストロベリーティーが既に用意されている



「わざわざ俺を指名するなんて、何かあったんですか?」


「何かあったのはそっちだろう。最近、悩んでいる事があるはずだ」


「…まあ、マフィアって苦労が絶えないですし。でも別にグロリアに相談するような話じゃ……」


「誰が相談に乗ってやると言った。わたしはそんなお人好しじゃないぞ」


「じゃあ、何で俺を…?」


「沢田綱吉、くだらない事に貴重な時間を浪費している暇があるならもっと強く賢くなるんだな。そんなではいつまで経ってもジョットを越えられないぞ」



はっと鼻で笑ったグロリアはシャドウが切り分けたチョコレートケーキをぱくぱくと食べている


雲雀とツナの前にもケーキの乗った皿は置いてあるが、手が付けられる様子は無い



「利用できるものは全て利用しろ。相手を騙してでも利益を上げろ。全てはボンゴレの為に。

おまえの背負うボンゴレ十代目の肩書きは、そう易々と成し遂げられるようなものではないぞ」


「…それは、俺達に利用されてくれるって事ですか?」


「まさか。おまえ如き小者がこのわたしを利用できると?勘違いも良い所だ。しかしまあ、頼まれてやらん事もないぞ。駄賃は既に貰ってある」



一口サイズに切ったケーキを刺したフォークを見せびらかすようにくるくる回し、グロリアはツナを挑発する



グロリアが何を考えているのかがツナには分からない。何故ツナ達を助けるような真似をするのか、それもわざわざ自分から手を差し伸べるなんて、グロリアの性格を考えるとらしくない気がした



「…たかがケーキくらいで、俺の願いが叶うとは思えないんだけど」


「当然だな、こんなもの微々たる程度の価値しか無い」


「じゃあ他に、俺に何かさせるつもりですか?」


「…いや、おまえにこれ以上要求するつもりは無いよ。対価なら、−−数十年前に、ジョットから貰っている」



ツナの大きな瞳が更に見開かれる。口を挟まない雲雀も、予想外な人物の名前に驚きを隠せていない



「T世[プリーモ]が…?何で、」


「あいつは誰よりも何よりもボンゴレの事を考える奴だった。何がファミリーにとってプラスとなり、どうすればファミリーの為になるか。ジョットはわたしに頼んで逝ったのだよ。ボンゴレの頼む、とね」


「…T世は、君に何を払ったの?」


「さあな。しかしわたしを動かすだけの価値があるものだ。そう簡単に払えるようなものではないし、そして払うと決断するのも容易ではない」


「でも、T世は払ったんですよね。グロリアにボンゴレの未来を託して、グロリアをいつでも頼れるように」


「そういう事だ。おまえは細かい事は気にしなくて良い。面倒事は全てジョットが担ってくれたのだ、おまえ達は甘い汁を啜るだけで良いんだぞ。これを利用しない手があるか?」



細い手で口元を隠し、グロリアは心底可笑しそうにくすくす笑う



……何が、可笑しいのだろう。ジョットが払った物だろうか、それとも自分がツナ達に利用される事だろうか


どこか自嘲的に感じられる笑みは、見る者を悲しくさせるようなものだった



「…なら、グロリアを頼ります。ボンゴレに仇成す可能性のあるファミリーの武装勢力と戦闘要員がどのくらいあるか知りたいんです」


「ほう、わたしに敵ファミリーを滅ぼせとは言わないんだな」


「相手の目的も分からないのに根絶やしにするなんて俺はしないし、したくない。水面下で奴らが何かやってる事は知ってるけど、でもそれだけだ。

俺らに直接歯向かったわけでも、攻撃して来たわけでもない。だったらまだ解決の余地はあるはずです」


「甘いな。相手の戦力を知った所でおまえに何ができる?」


「少なくともそれに備えてこちらの戦力を整える事はできます。必要以上の血は流さず、いや、誰も傷付けずに終わらせる事もできるかもしれない」



真っ直ぐに自分を見られている、ツナはそう感じていた。白いバンダナでグロリアの視線は遮られているのだが、試されているような、見透かされているような視線を感じるのだ


グロリアの部屋に時計は無い。それはグロリアに時間という概念が無いからか、膨大過ぎる時の中では1分1秒などどうでも良いからかは分からないが、しかしそんな部屋では会話が途切れると残るのは痛い程の静寂だけだ



鳥の囀ずりすら聞こえない、空気が張り詰める音さえ聞こえてきそうな程の静けさの中、先に空気を震わせたのはグロリアだった





「…おまえは本当に、ジョットに似ているよ」



その言葉の真意を、ツナは知らない。ただの生まれ変わりというだけではなく、もっと深い根底でジョットとツナが似ているとグロリアは言っているのだろう



しかしツナはツナであり、当然だがジョットではない。事ある毎にジョットの名を出すグロリアに正直苛ついていたのだが、言葉尻とは裏腹に弱々しいグロリアの声に反論する気力さえ失ってしまった




†Before††Next†

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