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孤独な月を 神は笑った
TRE



「なかなかの腕だな、獄寺隼人は。丁度良い焼き加減だ」



骸が細心の注意を払い用意したミルクティーとガトー・ショコラを口にし、グロリアは顔を綻ばせた


その様子を見て骸とツナは再び顔を見合せる。雲雀の報告と様子が違う



「…雲雀くんが、貴女は食事を摂らないと言っていましたが。何でも主食は薔薇だとか」


「ああ、食事を摂る必要は無いぞ。基本的にはな。

だがシャドウの料理の腕も相当なものだ、使わないのは勿体無いしわたしとて腹が空かないわけじゃない。たまに何か摘まむ程度だが、シャドウには常に何かしら用意させてある」


「彼…シャドウも何か食べるのですか?グロリアのように薔薇でも何でも」


「…シャドウは食べ物を一切口にしない。それこそ“必要無い”からな。ちなみに睡眠は摂るぞ、24時間年中無休ではシャドウも壊れる」



頭の中で考えていた睡眠の事まで答えられ、ツナはうっと閉口した


自分達より何枚も上手なのだろう。何を考えているのか読めないし、次にどんな行動を取るのかすら分からない



「しかし…」



ふとグロリアが険しい表情をした。何事かと骸とツナも黙ってグロリアの言葉を待つ





「これは実に見事だ。獄寺隼人はうちの城にも欲しいな」



ひょい、と油断していた骸のガトー・ショコラを奪い取り、グロリアはさっさと己のフォークを突き刺してしまった


呆気に取られて口を開けたのは骸だけではない、ツナもだった。本当にグロリアの行動は予測不可能だ



「…気に入ってもらえて何よりです。なんなら手土産用にもう1つ焼かせますよ」


「そうか?なら是非頼もうか、シャドウが食べられないのが残念だ」



すっ、と今度はツナの皿まで奪う。次々にガトーショコラを胃に収めるグロリアを、若干呆れを含んだ目で見つめる



「それで、俺に会いに来てくれたそうで。俺は貴女の予想通りですか?」



3つ目のガトー・ショコラを見事に平らげミルクティーに口を付けたグロリアに、ツナは足を組み替えてから訊いた


ぴく、と反応を示したグロリアは静かにミルクティーの香りを堪能してから顔を上げる



「ああ、予想通りだよ。…ジョットに実に似ている」


「……え?」



ジョット、とは言わずと知れた初代ボンゴレ。彼とツナが似ている事も有名だが、しかし



「…ボンゴレT世をご存知なんですか?僕達の心を読んだのではなく、彼自身を?」


「ああ。その必要以上に優しくてお人好しな所はジョットと変わらない。あいつも人畜無害な奴だったよ」



ツナを見てにこりと微笑む。綺麗な笑顔を向けられたはずなのに、ツナはどこか複雑な心境だった



「…俺は、T世[プリーモ]の生まれ変わりだから十代目になったわけじゃない。そんな事、」


「関係無い、だろう?その通り、おまえは沢田綱吉であってジョットじゃない。前世が狗だろうが蚤[ノミ]だろうがそんな事は“関係無い”。おまえは実力でその地位に居る、自信を持てば良いよ」



ツナが言わんとしていた事が分かっているのか、グロリアは諭すようにそう告げた


他の人間、例えばあの元家庭教師に同じ事を言われたとして、果たしてツナはこんなにも安堵できるだろうかと考えた



確かにリボーンも説得力があるし納得できるのだが、しかし何故かグロリアの方がすとんと心に落ち着くのだ


理由は分からない、もしかしたら自分がそう思い込みたいだけなのかもしれないが



「ジョットは良い男だったよ。なかなか頭も切れたし、何より先を見通す能力に長[タ]けていた」



例え自分の前世であったとしても、他人と自分を比べられているようで、そして自分の方が格下だと言われているようでツナは憤慨した


先程認めたばかりじゃないか、とツナは口を尖らせて抗議する



「俺だって頭は悪くないし、計画的に動いてるつもりだけど」


「…知っているよ。しかし今のおまえが最高なわけじゃない。おまえだって分かっているだろう?

それともまさか、これだけ巨大なマフィアを一代で築き上げたジョットに己が勝てると思ってるのか?」



咎めるような言葉にツナは閉口する。思い返してみれば確かにまだミスはするし完璧なわけではないのだろう


だからこそリボーンや獄寺をはじめとする仲間が居るのであって、支え合い助け合う事がボンゴレの美徳でもある



「傲[オゴ]りや過信は身を滅ぼす。おまえだけが滅びるなら好きにすれば良いが、おまえの周りには沢山の仲間が居る。そいつらが大切なら、あまり世の中を、そして自分自身を舐めない事だ」



それは忠告か、あるいは警告か。ボンゴレの味方はならないと断言していたのに、これは明らかにツナへの助言だった


ツナ自身決して傲り高ぶっていたわけではないが、ボンゴレの名に気が大きくなっていたのは確かだ


グロリアの言葉で目が覚めたツナは、それと同時に何故それをグロリアに指摘されたのかを疑問に思った



リボーンやディーノに注意されるならまだ分かる。しかしグロリアはボンゴレの味方でも仲間でもない他人なのだ


しかも“魔女”でありその潜在能力は未だ不明。そんなグロリアが何故、ボンゴレを救うような行動に出たのだろう



バンダナに遮られ見えるはずがないグロリアの瞳を、ツナはじっと見つめた



赤と青の瞳と目が合ったように感じたのは、ツナの気のせいだろうか




†Before††Next†

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