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孤独な月を 神は笑った
DUE



軽いノックと共に入室した骸は、ツナの見知らぬ女と腕を組んでいた


美男美女と形容しても文句の付けようが無いであろうその様は、実に絵になっている



腰まで伸びる長い銀髪に、白いバンダナで隠された目元。真っ赤に塗られた唇は挑発的に吊り上げられていて、それを見咎めたツナは微かに眉を潜めた



「…骸、そちらの方は?」



ボンゴレにとって、もしくはツナにとって危険な人間を骸がここに連れて来るはずがない。しかし見ず知らずの人間を連れ込む事も無いはずだ


そっとXグロースへと手を伸ばしたツナは、グロリアのバンダナの下に隠された目が細められた事に気付かなかった



「おや、ボンゴレの超直感は働かなかったんですか?綱吉が所望していた、“魔女”ですよ」


「魔女…?」



骸と雲雀の報告で長期戦になるだろうと思っていたツナも、まさかグロリアから屋敷を訪れるとは考えていなかったのだ


有らん限りに目を見開き、黒いドレスに身を包んだグロリアを見つめる



「はじめまして、沢田綱吉。グロリア・ウィンスレットだ」



固まったままのツナを軽く無視しグロリアはまるで自分の城かのように振る舞い、許可も無く黒革のソファに座る


その堂々とした態度にツナは何も言えず、説明を求めるかのようにツナを見た



「…残念ですが僕にも何とも言えません。ただ気付いたらグロリアが居た、としか」


「気付いたら、って」


「鍛練場を締め切って能力[スキル]を試していたんです。そしたら…」


「“呼ばれた”からな。暇だったから来てやった」



未だに状況が読めていないらしい二人を心底可笑しそうに見つめ、グロリアは二人にも座るように促した



「六道骸、おまえはあそこで何をしていた?何を呼んだ?」


「何って…、地獄道ですから人に死をもたらす物を…」


「その通り。だからわたしがあそこに現れただけの事だ。何をそんなに難しく考える必要がある?」



骸とツナを正面に捉え、やはりグロリアは楽しそうに笑う。そして彼らはどう噛み砕いてもグロリアの言葉を理解できなかった



「つまり…、貴方は僕が作りだした有幻覚だと?」


「かなり近いがそれは違う。わたしはわたしであってわたしではない。“わたし”は城を離れないと言っただろう。

今ここに居るわたしは簡単に言えば立体映像だ。投影機の無い、な。そして“わたし”はわたしが作った。おまえが触れる事もわたしが触れる事もできる、分身のようなものだ」



要するにあの城に居ながらこのボンゴレ屋敷にも現れたということだろうか


理解の範疇を越えた話に頭が痛くなりながらも、ツナも骸もこの機会を逃すわけにはいかないとグロリアを見つめ返した


どんな形にせよ折角グロリアがあの城を出てボンゴレ屋敷へと来てくれたのだ。今を利用しない手は無い



「“呼ばれた”っていうのは?骸が貴女を呼んだんですか?」


「わたしを、ではない。正確に言うならヒトに死をもたらすモノを、だ。

そいつの持つ地獄道は、要はヒトを殺せるイキモノなら何でも良いのさ。蜘蛛でも蛇でも、その手段を持っているなら蚊でも蛙でも召喚できる。

…そしてわたしも、ヒトざらぬ力を持っているからな、そいつが無意識の内に流した思念に乗ってここまで来た。複雑に考えるな。わたしは毒蛇と同類だと思えば良い。あいつらより多少長生きで賢くて、……醜いだけだ」



恐らくグロリアは混乱する骸達にも分かり安いように説明しているつもりなのだろう。しかし二人はなかなか理解できずに顔を見合せた



「…良く分からないんですが、」



六道輪廻を操る骸が分からないのであれば、冥界の力に不精通なツナに理解できるはずがない


仕方の無い奴らだ、と苦笑したグロリアはヒラヒラと片手を振り強制的に話を終わらせてしまった



「無理に分かろうとしなくて良いさ。今は分からずとも、いつか不意に分かる時が来る。

もう少し捕捉するなら、六道骸の能力がわたしがここまで来る道標を作ったと思えば良い。わたしがやった赤い指環と同じだ、何かしら標的があった方がわたしも楽だからな」



分かったような分からないような。とにかく骸が地獄道を使ったからグロリアはここに来たという事なのだろう


無理にこの話題を続けてグロリアの機嫌を損ねるのは避けたい、とツナも話を摩[ス]り替えた



「それで…、グロリアは本当に魔女なんですか?なんていうか、現実味が無くて」


「だろうな、六道骸も雲雀恭弥も初めは信じてなかった。わたしが“魔女”なのかどうかはわたし自身解らないが、わたしが“人間”でない事はそいつらも知っている。

…少しわたしの能力を見せてみようか。そうすれば多少なりとも実感が湧くだろう」



そう言ってグロリアはしばし天井を見上げるような仕草をした


“能力”とやらを使っているのだろうか。わずかな変化も見逃さないように、瞬きするのも忘れてツナ達はグロリアを凝視した





「…六道骸、喉が乾いた」



ピリピリと緊張が高まっていた二人は、グロリアの何とも気の抜けた言葉に脱力する


能力を見せる、と言っていたのに飲み物の要求とは。しかしここで言う事を聞かなければこの後どうなるか分からない



渋々腰を上げた骸は、正面に座したグロリアが笑みを深くした事に気付かなかった



「…ああそれから。わたしはダージリンよりアッサムの方が好みだぞ、六道骸」


「はい…?」


「どうせ淹れるならロイヤルミルクティーにしてくれ。そこの棚の右端にあるディエゾン社の茶葉で、成分無調整のミルクを使って、な。

茶菓子は獄寺隼人が下の厨房で焼いてるガトー・ショコラで良い」



骸ですら知らないツナの執務室の勝手を次々に言い当て、更にはツナですら知らない獄寺の行動を読む


ツナ達の会得する読心術の更に上を行く能力を披露したグロリアに、ツナも“人間ではない”と認めざるを得なかった




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あきゅろす。
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