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孤独な月を 神は笑った
OTTO



「人は失くして初めて、その大切さに気付く。

友人も家族も仲間も、近くに居る時は疎ましくさえ思うのに、亡くしてからその必要性を感じるんだよ。ここを訪れる人間が後を絶たないのがその証拠だな。


生き返らせてくれと泣いて縋る人間はいくらでも居るし、わたしの存在を知らない奴も沢山居る。森に阻まれてここに辿り着ける人間は少ないが、それでもあれだけの人数を作れるだけの依頼はあった。


…その分、消えていくのも早い。ヒトとは愚かな生き物だよ。過去に必要以上の価値を持たせようと、無くした物をまるで神かのように崇める。その先にある未来に見向きもしないで、ね。


そのくせさっさと忘れて違う希望を見い出す。前向きと言うか、なんと言うか、…おまえ達は、虚しくならないか?」





始めは、1人だけのはずだった。あの老い耄[ボ]れた見る影も無い国王の願いを訊いて、その過去を彼が乗り越えるのを待つだけの予定だった


しかし、どこから噂を聞き付けたのか、グロリアを頼る人間は後を絶たずむしろ増えていく一方だった


新しく蘇らせるのは良い。しかし、毎日のように消えていくその存在達に、グロリアは形容し難い感情になるのだ


悲しみとは違う、虚しさとも違う。それは切なさにも似た哀しみだという事に、気付いた時にはもう戻れない所まで進んでしまっていた



日に日に増えていく街の住人と建物。始めは1つで良かった魔方陣も増え、そろそろ潮時かと思っていた矢先の出来事だった



丁度良いタイミングだった。このままずるずると続ける事に、意味なんて無いのだから




「…君は、」



亡くした人を蘇らせて欲しいとグロリアに縋る人は数多く居るのに、その中の誰1人だって蘇らせた者を最期まで想い続けられる者は居なかった


早ければ1ヶ月で、長くても3年もすればグロリアが蘇らせた者達は消えていった



この街に老人が少ないのは死んで当然と諦められているからか、はたまた蘇らせても生い先が短いと思われているからか



グロリアにとってはどちらでも良かったが、何度となく自らの手で魔方陣を壊したくなった事か


永遠に続く想いなど無いと、まざまざと見せ付けられたかのようだった



「君は、どうしてお姫様を蘇らせようと思ったの?わざわざ君から逢いに行ったりしなければ、王様はそのまま死んで、それで終わりだったはずだ。

そうすればこんな街も必要無かったし、人間が君を頼る事は無かったはずだよ」



…さぁ、どうしてだろうね。ドアの向こうに小さな気配を感じたグロリアは、雲雀の疑問を曖昧に誤魔化そうとして自嘲的に口元を釣り上げた


いつだって優し過ぎるあのウサギは、きっと今回の出来事でもまた深く傷付いている。涙を流す事のできないガラス玉が曇る事は、永遠に無いのだが




「…わたしも昔、大切な者を亡くした。救おうと思えば救えたはずの命を、目の前でね。

この命に代えても守らなければいけないモノを無くした絶望感は、それを味わった者にしか分からない。…国王が国と娘を失ったのが丁度自分と重なってね。なんて事は無い、ただのお節介だったんだよ」




グロリアが指をパチンと鳴らすと、シャドウが開けられずに躊躇っていた扉が音も無く開いた


グロリアが起こす手品にも似た魔法に既に順応してしまった骸と雲雀は、もはやこのくらいの事では驚かなかった



「シャドウ、この二人はもう帰るそうだ。見送りの準備を」


「かしこまりました」



グロリアの前に紅茶を置いたシャドウが恭しく頭を下げ、大きなクローゼットらしき家具に消えるのを、グロリアは満足そうに見ていた


骸と雲雀も未だにウサギが器用に喋ったり動いたりする事に違和感を感じそれを眺めていたが、はたと気が付きグロリアに食って掛かった



「ちょっと、誰が帰るなんて言ったの」


「言っただろ、わたしが」



グロリアは事も無さげにさらっと言ってのけ、シャドウが持って来たショールを羽織り立ち上がった



「…お言葉ですがグロリア、僕らは任務が終わるまで帰るわけにはいきません」


「まだ諦めてないのか、わたしは城[ココ]を離れるつもりは無い。おまえ達が何を言おうとな」


「じゃあこの際力ずくでも良いよ。君の話をしたら綱吉はもっと欲しがるだろうから」



ゆらりと立ち上がった雲雀は静かにトンファーを構え、鋭い目付きでグロリアを見据えた


振り返ったグロリアは何を見ているか分からない。だからなのか、肩を揺らしたシャドウを庇うように片手を動かした事だけが妙に鮮明だった



「……わたしとおまえ達二人が本気で闘ったとして、勝つのはどっちだと思う?」



それは、雲雀の放つ殺気を一掃してしまえる程冷静な声だった


ここで雲雀が引く事を、闘わずに終わる事を確信しているような、そんな声だった



「止めておけ。わたしは結果の見えた殺生を好まない」



あっさり雲雀向けられたグロリアの背中が、戦意の無さを物語っている



「ボンゴレ本部のエントランスまで送ろう。着いて来い」



長いドレスの裾を翻[ヒルガ]したグロリアの眼中に、雲雀の姿は無かった




†Before††Next†

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あきゅろす。
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