孤独な月を 神は笑った
QUATTRO
骸と雲雀はグロリアの城へ入る為の入口を探し、街をさ迷っていた
グロリアの事だ、待って居れば前回の様に勝手にドアが現れシャドウが案内をしてくれるかと待っていたのだが
待てど暮らせど一向に空間が歪む気配すら無い。いい加減待てなくなった雲雀はホテルを飛び出した
前に扉が出現したあの路地裏にも行ってみたが、やはり何も変わらなかった
「…ちょっと。どういう事なの、これ」
「いえ…、僕にもさっぱり」
そんな中雲雀の苛々はピークに達し、既に装着してあるトンファーで今すぐ骸を咬み殺さんばかりの勢いだ
雲雀達からグロリアにコンタクトを取れない為どうする事もできず、かと言って大人しくしているつもりは毛頭無かった
当ても無くひたすら街中を歩き回り、辺りが明るくなりいい加減ホテルに戻ろうかと道端に二人が座り込んだ時
「わっ、」
「……っ!?」
彼らの足元の道路が、消えた
消えた、と言うより抜けた、と言った方が正しいのだろうか。突然足場が消失した事に対応できなかった二人はそのままその穴に落ちて行く
真っ暗な闇に呑まれた様な感覚に二人は混乱した
「…っ骸!!」
「は…」
どすん、と重たい音と共に二人はどこかへ着落した。穴の終わりは余りにも唐突で、やはり受け身を取れなかった二人はそれぞれ腰や頭を押さえて踞る
高さや落ちていた時間は良く分からないが、直撃したにしてはそれほど痛くはなかった
打った腰を押さえつつ雲雀が目を開けると、そこには以前1度見たことのある深紅の絨毯が。恐らくこれがクッションになったのだろう、と雲雀は思った
『ようこそ、雲雀恭弥に六道骸』
前回同様目元をバンダナで隠して、グロリアがカウチソファに優雅に座っていた
その余裕溢れる姿に雲雀の怒りは頂点に達し、すぐさま体制を整えてグロリアに噛み付いた
「ちょっと、なんでこんな呼び方したわけ。前みたいに普通に扉でも作れば良かっただろ」
『同じ事の繰り返しではつまらないだろう。予想外の出迎えをした方が楽しい』
「…全っ然楽しくなんてなかったんだけど」
『誰もお前達を楽しませようなんて思ってないさ。わたしが楽しければそれで良い』
「…咬み殺すよ」
グロリアの明らかに雲雀を見下した態度にとうとう雲雀はトンファーを構えて駆け出した
雲雀とグロリアの距離はわずか数メートル。少し踏み込めばすぐに相手の懐に飛び込める
−−はずだったのだが
『まぁそう慌てるな。まだ時間はある』
「−−っ!?」
ふっと笑ったグロリアが片手を上げると、雲雀は足の力が抜けた様にその場に膝を付いた
それに驚いたのは雲雀だけではなく骸も同様で、あのプライドが高く戦闘狂の雲雀が、と目を見開いている
何をした、と言外にグロリアを睨み付けると、近付いたはずの二人の距離が再び開いていた
ただ困惑するしかない雲雀は助け起こそうとした骸の腕を乱暴に払い、グロリアを正面からきつく睨み付ける
『そういきり立つな。話があるんだろう?』
「…それが話をする態度なわけ。人をおちょくるのもいい加減にしろ」
『おやおや、怖いねぇ…』
口元を片手で隠したグロリアはくすくす声を立てて笑い、長いドレスの裾を引き摺って立ち上がった
ばっと警戒体制に移った雲雀達とは対照的に、グロリアは細いヒールを鳴らして側にあるチェストへ歩みを寄せた
『飲むか?』
「…要らない」
グロリアが手に取ったのは高そうなブランデーで、仕事中だ、と雲雀は一刀両断する
残念そうに肩をすくませたグロリアはそれをグラスに移し再びカウチソファへと座った
片手で向かいのカウチを示し、雲雀と骸に座る様に促す
『会えなかっただろう?ミラに』
「…分かっていたんでしょう、貴女は」
『勿論。迷える仔羊にヒントを与えてやったのさ』
「では僕達の考えは正しい、と?ミラは貴女の能力で蘇った死者なのですか?」
『当たらずとも遠からず、だ。大筋は間違っていないがな』
「…はっきりしなよ、僕らだって暇じゃないんだ」
喧嘩腰の雲雀では話にならないと骸が情報を聞き出していたのだが、相変わらずのグロリアの態度に痺れを切らした雲雀が会話を遮断する
「君、相当趣味悪いよね。人を馬鹿にして楽しむなんて下等な奴のする事だよ」
『性格は悪いが趣味は良いと思うよ、雲雀恭弥。
急がば回れという諺があるだろう。そう急かしても望む結果は得られないぞ』
「君がイエスかノーで答えれば良いだけの話だろ。ミラは君が蘇らせた死者なの」
骸と同じ質問を、骸よりもキツい口調で問うた雲雀はまっすぐにグロリアの目を見つめた
バンダナで遮断されたグロリアの視線と雲雀の視線が交差する事は無い。しかし雲雀は痛い程の圧力をグロリアから感じ取っていた
『……そうだな、イエスかノーで答えるとしたらわたしはイエスと答える』
「…骸、」
「大丈夫ですよ。しっかり録音してあります」
懐からレコーダーを取り出した骸は雲雀に頷いて見せる
報告書と共に提出する確たる証拠を得たのだ。取り敢えずはこれだけでツナも納得するだろう
これ以上ここに居たくない、と腰を上げた雲雀と骸の背中をうろんげに見やったグロリアは、口角を吊り上げて言った
『もう帰るのか?クライマックスはこれからだぞ』
その瞬間、大地が揺れた
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