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ルチフェルの泪とサタンの唄声
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「…柘榴、」



いつまでも床に座り込んだままだった柘榴の手を引き、雲雀は極力優しく抱き起こしてやった


その際ふらついた柘榴の体を抱き止めた雲雀は、腕の中の小さな存在が小刻みに震えている事に気付いた



初めて銃を撃った反動の強さか、少しでもリボーンの照準がずれていれば自分が死んでいた事に対する恐怖か、目の前で人が殺された驚異か


何にせよ柘榴が震えているのだ。雲雀は彼女を憂いから守るかのように優しく抱き締めた



「…リボーン、もういいよ」



未だに銃を降ろさないリボーンの肩を優しく叩き、ツナが終演を告げた



「ルナリアには然るべき場所で、然るべき罰を受けてもらう。だから、」



ツナが諭すように話し掛けると、チッと舌打ちしたリボーンは大人しく銃を降ろした



遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。そろそろ自分達も撤退しなければ、とツナは思った



「…とにかく屋敷に戻ろう。ルナリアは警察に任せれば良いし、俺達の役目は終わった」



各々どこか煮え切らない、納得のいかない顔をしつつも、一先ず屋敷に帰ろうとツナの言葉に素直に従う


獄寺はルナリアの拘束が頑丈な事を確認してから、徐に柘榴の方を向いた


雲雀に支えられて立つ柘榴の肩が震えている。俯いているので一瞬泣いているのかと狼狽えたが、雲雀が平然としているのでそうではないらしい


しかし歩みを促そうと腕を引いた雲雀は、ぱしんと弱くその手を叩[ハタ]き落とされて驚愕した



「…誰が、助けてなんて言ったの?余計な事しないで!!」



柘榴の視線の先にはリボーンが。今まで無表情の柘榴しか見て来なかったツナ達は一様に目を見開く


今の柘榴は荒々しい感情を剥き出しにして、確実に怒っているのだ



「…おい、それが命の恩人に対する言葉か?感謝はされても罵られる覚えはねーぞ」


「頼みもしてないのに大きなお世話よ。そういうの、お節介っていうのよ」


「なんだと…?」



元より仲があまり良くない二人だ。間に入って宥[ナダ]める人間が居なければどんどんヒートアップしてしまう


はじめて柘榴の感情らしい感情を目の当たりにしたツナ達は、止めに入るよりも二人の喧嘩を観戦してしまった



「誓約書[そんなもの]持ち出さなきゃあたしを言いなりにできないなんて、自信が無い証拠でしょう?あたしが何するかも分かってなかったくせに、随分準備が良いのね」


「はっ、用意周到と言えねぇのか。てめーごとき死のうが生きようが、オレはどーだって良かったんだよ」


「っ…。なら、なんで邪魔したのよ…!?あのまま放っておけば良かったでしょ?」


「…てめーがボンゴレに居た方が、メリットがあるんだよ。てめーは見てくれだけは良いみたいだからな」


「ふざけないで…!!」




感情的になりすぎた柘榴は右手を大きく振りかぶった。それにすぐさま反応したリボーンはその右手をあっさりと受け止め逆に拳を繰り出そうとする





「…そこまでですよ、アルコバレーノ」



トンッと首筋に鈍い衝撃が走り、柘榴は自分の意識がブラックアウトするのを感じた


力無く崩れ落ちた柘榴の体を片手で抱き止めた骸は、同じように片手でリボーンの拳も押さえ付けていた



「…これが部屋の隅に落ちていました。見た所阿片のようですね。既に結晶化している所を見ると、随分と高純度なんでしょう。わずかですがスポイトも押されていますし、柘榴に注入されたみたいですね。

…一般の人間にいきなり純度の高い麻薬は辛い。異常に感情が高ぶったのはそのせいでしょう」



柘榴を抱えた手で注射針をリボーンに見せた骸は、力の限りそれを床へと叩き付けた


割れた注射針から飛び散る透明な液体を睨み付けながら、片手で支えていた柘榴の体をしっかりと抱き直した


骸は、この綺麗な液体がヒトの精神を一方的に破滅させる恐ろしい凶器である事を良く知っている



「…大人気無いですよ、君が冷静にならなくてどうするんです?柘榴は今まで一般人だったんです。それなのに目の前で人を殺されて、気が動転しないはずがない」



骸が咎めるようにそう言えば、口を尖らせたリボーンは負けじと反論する



「だったら骸、おめーはその死にたがりの女の味方するってのか?オレよりもそいつの方が正しいとでも?」


「…そうは言ってませんよ、アルコバレーノ。その事については柘榴とじっくり話をするつもりです。しかし……」



ファンファンとパトカーのサイレンが近い。蕀城に到着するのも時間の問題だろう



「それは今ここで論ずるべき事ではないでしょう。早くここから撤退しなければ、更に面倒な事になりかねない。さあ、行きますよ」



骸に再び促されて、今度こそ一行は蕀城を出た


骸の車に乗せられた柘榴は、薬[ドラッグ]に助長された意識の中で、懐かしい夢を見ていた



思い出す事を頑なに拒んでいた、しかし決して忘れる事などできない過去を




《†front†》

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あきゅろす。
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