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ルチフェルの泪とサタンの唄声
12



「…そこまでだ、ボスを放せ」


ボンゴレの圧勝で終わるかと思われたこの騒動は、カリオンによって一瞬で覆された



いつの間に部屋から消え、再び舞い戻ったのか。先程のルナリアと同様に、人質らしき人間を羽交い締めにし銃を向けていた



「残念だけど、君のボスは降伏したも同然だ。無意味な抵抗は止めて君も銃を捨てるんだね」



トンファーを構えた雲雀がそう告げても、カリオンは臆さない


むしろ不敵な笑みを深め、くい、と銃口で俯いていた人質の顔をツナ達に見えるように仕向けた



「こいつを殺されてもいいのか…?」





ぽたっ、ぽたっ。と艶を失った黒髪から、赤い雫が落ちては絨毯に消えていく


まだ幼さの残る顔立ち、特徴的なもみあげ。トレードマークの黒い帽子は、格闘中にどこかに落としたのか今はあるべき場所に無かった



「…リボーン……!?」



最強ヒットマンと詠われた彼が、何故



「こいつの命とボスを引き換えだ。素直にボスを渡すなら、こいつも返してやる」



ぐっと銃を押し付けられた反動で、リボーンの頭が揺れる。完全に意識を失っているのか、彼からは力を感じない


ルナリアの腕を掴んでいた獄寺の力が緩む。どうするべきか、指示を仰ごうとツナに目配せした



「…どうやって、リボーンを」


「はっ。たかが11歳の餓鬼、ノせなくてどうするんだよ」



挑発的にルナリアが人差し指に力を込める。それを目の当たりにしたツナは奥歯をぐっと噛み締めた



当初の目的だった柘榴は無事救出できた。故にルナリアをここで解放したとしても今は大した問題ではない


しかし、その後再びルナリアが柘榴を拐わないとも限らないし、それよりも目の前のカリオンという男の能力が未知数なだけに下手に動けなかった


あのリボーンを1人で倒してしまったとあれば、その戦闘能力は相当なものなのだろう。守護者とツナが揃っていたとしても、全員無事に帰れる保証は、無い



心の中で葛藤するツナを横目に、柘榴は自分の手に視線を落とした


初めて手にした冷たい銃。その重みは想像以上のもので、これが人の命の重さなのだろうかと思った



ツナ達は動くに動けないでいる。あの雲雀や骸でさえ身動きを取れないでいるのだから、マフィアとは色々ややこしいのだろう


ならば、一か八か。自分が賭けてみるのも悪くはないかもしれない



かちゃ。柘榴が握る拳銃が、冷たく光った



「−−ルナリア。彼を止めなさい」



柘榴はまっすぐ銃口をルナリアに向け、引き金に細い人差し指を掛けた


この行動に驚いたのはルナリアだけではない。ツナも雲雀も、その場に居る全員が目を丸くして驚いていた



「…柘榴、いけません。銃をこっちに渡して下さい」



柘榴が気付いているのか分からないが、ルナリアから奪ったまま銃の安全装置は掛けられていない


もし柘榴が少しでも人差し指に力を込めれば、仮にルナリアに当たらなかったとしても弾が発射されてしまうのだ



「ルナリア、聞こえなかったの?貴方の命令なら従うでしょう、カリオンを止めさせなさい」



しかし柘榴は骸の言葉を無視し、再度ルナリアに告げる。その目は恐ろしい程に真っ直ぐで


力ずくで銃を奪う事もできるはずなのに、ツナ達は一歩も動けなかった



「…ははっ、柘榴にそんな物は似合わないよ。銃を向ける事はできても、引き金を引く事はできないだろう?

これでもマフィアのボスだ、舐めないで欲しいね」



柘榴が銃を握る手に力を込めたのが分かった。図星、だったのだろう


今まで一般人として平和に生きてきた柘榴が、例えリボーンの為であったとしても躊躇いも無く人を殺せるはずが無い


ツナ達にだってそのくらいは分かるし、むしろ柘榴が人殺しを簡単にやってのけたらその方が怖い



カリオンとルナリアが勝ち誇ったように笑った瞬間、同じように柘榴も笑った





「−−そうね、あたしは簡単に人を殺すほど落ちぶれたつもりはないもの。

でも、…こっちなら、どう?」



かちゃ、と柘榴は再び銃口を向けた。しかし今度はルナリア目掛けではなく、自分の、右のこめかみに向けて



「このままあたしが引き金を引いたら、きっと頭は吹っ飛ぶんでしょうね。そうなったら貴方のコレクションとしては使い物にならない」


「…それこそ私を舐めているのかな。君に死ぬ度胸なんて無いだろう。無意味な事は止めて、こいつらに私を解放するように言うんだ」


「−…前科のある人間に、煽るような事言わない方が良いわよ。何するか分からないから」


「何…?」



ルナリアが怪訝そうに眉を潜めたのを見て、柘榴は満足そうに笑った


ひゅうっと、室内なのに冷たい風がどこからか吹き込む


柘榴を止めなくては、そう頭では理解しているのに、誰一人として動けなかった





「−−あたしね、死んだのよ。断崖絶壁の入江から飛び降りて、なのに気付いたらお屋敷のベッドに寝かされてて、雲雀さんとツナさんが居たの。

ねぇ、あたしは死んだはずだったのよ。海に叩き付けられて、魚の餌になって、跡形も無く消えたはずだったの。


それなのに、…なんで、あたしはここに居るのッ…!?」





−−パァン、真っ赤な飛沫と共に、耳障りな音が響いた




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