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ルチフェルの泪とサタンの唄声
08



大好きだよ、と彼は言いました。あたしは愛してる、と言いました


世界中にあたし達は二人きりでした。彼はあたしの為に、あたしは彼の為に



−−それで良かった。あたしは十分幸せだったし、満足してたから


彼が隣に居て、彼の為に生きれて、彼に尽くせる事が喜びだった



例え、いつしか彼の気持ちが分からなくなったとしても


例え、彼があたしを見なくなっても


例え、彼が他の子を愛したとしても



あたしは貴方の側に居られれば、それで良かったの





ねぇ、貴方は今、誰を想って生きていますか?




















「……おい」



ベッドに仰向けになったまま目を瞑っていた柘榴は、低い声で呼び掛けられてそっと目を開けた


傍らには険しい顔をしたカリオンが、手に黒い物を持って立っている。相変わらずノックをせずに入室された事に不快感を表しつつ、柘榴は身を起こした



「貴方のボスもだけど、女性の部屋に勝手に入らないの。ノックするのは礼儀よ」


「…なんでテメェはそんな偉そうなんだよ」



強面のカリオンが相手でも全く臆した様子を見せない柘榴。それが面白くないカリオンは手にしていた得物を柘榴へと向けた


向けられた黒い銃は窓から射し込む光ではっきりと見える。しかし柘榴は顔色一つ変えずにカリオンを見返していた



「…ボンゴレの弱点を吐け。テメェならなんか知ってんだろ」


「残念だけど、あたしは何も知らないわ。彼らの誕生日も家族関係も恋人も、何も」


「隠そうったってそうはいかないぜ、コレが何か分からねぇわけじゃねーだろ?」


「…“ボンゴレ”にも居るわ、そういう危ない玩具で遊びたがる子供が。だから慣れてるの、今更怖くないわ」


「はっ、これだからド素人は困るんだよ。どうせボンゴレは脅しだろうが。オレは脅しなんかじゃ…」


「“ボンゴレ”は本気だけど、貴方は脅しでしょう?だって貴方にあたしを殺せるはずがないもの」


「あ゙…?」



ベッドの縁に腰掛けていた柘榴は優雅な動作で立ち上がり、カリオンの目の前まで歩いて行った



途中カリオンが止まれと銃口を突き付けても止まらない。結局柘榴が止まったのはカリオンとの間がほぼ完全に埋まってからだった



「…ほら、ね。貴方は撃てない。撃てるはずないもの」



向けられた銃身を握り締め、下からカリオンの瞳を覗き込む


黒光りする銃口は真っ直ぐに柘榴の心臓へと狙いを定めていて、それにすら恐怖しない柘榴の目に、カリオンは逆に怖くなり1歩後ろへ下がった



「−−殺せるわけないのよ、貴方にあたしが。だってあたしに傷でも付ければ、あの異常に綺麗物好きな彼が許すはずないもの。

マフィアってボス第一みたいだし、貴方は彼に忠実みたいだし、…ねぇ、貴方にあたしを殺せるの?」



こてん、と小首を傾げた柘榴は、常人ならば胸が高鳴る程の愛らしいものなのに


何故だろう。カリオンは黒い瞳の中に、死人のそれを見た気がした























「…それじゃ、また後で」



仮住まい用のホテルで綿密な打ち合わせとシミュレーションを繰り返したツナ達は、各々が運転する車に乗り込み一時解散した


それぞれで準備やら支度があるのだ。リボーンを除くツナ・獄寺・山本・雲雀・骸の5人は鼻息荒くアクセルを踏み込んだ


リボーンは会議にすら出席せず、別室で銃の調整をしているらしい。やる気の無い人間は任務に就かせても無意味だと知っているツナは何も言わずにその後姿だけを見送った



柘榴を救出する為に一丸となったボンゴレ幹部達は、その手に凶器を握り締めて走り出す


見つめる先にあるのは1つ。やり方が違うだけで、望むものは同じだった



「…無事でいろよ、柘榴……」

















ダンッと放たれた弾丸は的確に的の中心を撃ち抜き、確かな手応えと強いリコイルをビリビリと感じたリボーンは未だ硝煙の上がる銃をホルスターへと戻した


リボーンが引き金を引いた回数は5回。その全てが的の中心、即ち心臓を撃ち抜いていた



開いた自分の手のひらを見つめ、リボーンは指の間から見える赤い床に視線を落とした


これから自分がやろうとしている事は、ただの裏切りかもしれない


それが確かな自信に裏付けされたものだったとしても、自分の信念は決して曲げられてはいないとしても



自分の元教え子は、許さないかもしれない


この裏切りとも取れる、愚かな真似を



ぎゅっと握り締めた拳から堕ちた物に気付かないフリをして、リボーンは遅ばせながらもホテルを出た




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