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ルチフェルの泪とサタンの唄声
02



「ん……」



薬で無理矢理眠らされたせいか、柘榴はズキズキと痛む頭に目眩を感じ再度目を閉じた


両手は背中で荒縄で縛られているらしく動かない上に、柘榴が寝かされていたのは岩肌が剥き出しになった牢獄だった


映画さながらの鉄格子のはめられた小窓からは月が見える。南京錠が掛かった鉄柵は蹴ってみてもビクともしない


珊瑚の間に侵入したのは女2人に男が1人だったのだ。無事にツナ達を見付けられた安心感からすっかり忘れていたのだが、迂濶だったと後悔する



薬の副作用なのか軽い吐き気すら感じながら柘榴は寝返りを打つ。見上げた天井はいくつもの穴が開いていて、予想以上に低かった


冷たい石の上に横になっていても決して寒くはない時期ではあるが、やはり体は冷えるもので、柘榴は動き難い手を必死に動かして着崩れてしまった浴衣を直した



監視カメラや看守は見当たらないが、ここはマフィアのアジトなのだろう。未だかつて体験した事のない出来事に柘榴は身震いした


ツナ達は比較的“良い”マフィアではあるが、世の中のマフィア全てが彼らと同列であるとは限らない


むしろボンゴレのようなマフィアは珍しいと言って良いだろう


何故自分が連れ拐われたのかが分からずに、柘榴はしばらく瞑目した



これからどうなるのだろう。バラバラにされて内臓を売り飛ばされるのは嫌だと思った





「…よう、お姫様。お目覚めかい?」



珊瑚の間で聞いた、あの野太い声が近くで聞こえ、柘榴は静かに目を開けた



「…誰、」


「トーポファミリーの補佐みたいなモンだ。あんたの命はオレらが預かった」



トーポ。どこかで聞いた事のある名前だと、柘榴は記憶を辿った


確か、あれは、



「あんたが殺した“ネズミ”の仲間だよ」



ツナの執務室に侵入し、挙げ句毒薬を飲んで自殺した男が、トーポファミリーの一員だったと誰かが言っていた気がした


しかしだったら尚更柘榴が誘拐された理由が分からない。そもそも柘榴はあの男と顔を合わせてすらいないのだ



自分を恨むのはお門違いだ、と柘榴は言い掛けて止まった。いつの間にか男が、柘榴が居る牢の中に入って来ていたのだ



「……あんたがもうちょっと上手く動いてくれてりゃ、あいつは死なずに済んだんだよ。あんたが、……くそっ!!」



高い位置から柘榴を見下ろして居た男は唐突にしゃがみ、柘榴の細い首を締め上げた


縛られていなくても薬のせいで思うように身動きを取れない柘榴は、抵抗する事もできずにされるがままだ



ぎりぎりと力を込められる気道からは、空気が一切出入りしない。元々不鮮明だった意識が、更に霞掛かりひゅうっと空気が歪に漏れた





「……カリオン、何をしている?」



第三者の声が響き、柘榴の首を締めていた男の握力が一瞬で弱まる


急激に送り込まれる酸素に柘榴が噎[ム]せていると、カリオンと呼ばれた男が脇に避け、別の男が柘榴の前に立った



「大丈夫か、柘榴。まったく、お前は手が早くて困るな…」



未だ苦しそうに呼吸する柘榴の背を擦[サス]り、その男は柘榴を抱き起こした


背後でカリオンが警戒するように身構えたのを気にも止めず、男はあっさりと柘榴の縄を解いてしまった



「部下の無礼を許して欲しい。カリオンはフェーヴ…ボンゴレ本部に侵入した男だが、彼を大変可愛がっていてね。奴はなかなかできる男だったんだよ」



ようやく呼吸が落ち着いた柘榴は、そう言って目尻を下げた男の顔を正面から見据えた


月明かりを反射するキラキラとした銀髪に、すらりと整った目鼻立ち


柘榴は男に厳しいのだが、それでも格好良いという部類に入ると思える程の美情夫だった



「挨拶が遅れたな。私はトーポファミリー四代目ボス、ルナリア・フォルトナートだ。この度は部下が乱暴な扱いをしてすまなかった」



丁寧な日本語で頭を下げたルナリアは、ゆっくりと柘榴の右手を取り柔らかな唇を押し当てた



「しかし誤解しないで欲しい。私は君に危害を加えるつもりはないのだよ」



ルナリアはゆっくりと柘榴の手を引き、しかし足に力が入らずグラついた柘榴の体をその逞しい胸にしっかりと抱き止めた



「カリオンが随分薬を盛ったようだな。…仕方が無い、私が上階までお連れしよう」



その言葉の意味を理解するより早く、ルナリアは柘榴を抱き上げていた



「ちょっ…!!」


「心配するな。決して悪いようにはしない」



にっこりとルナリアに微笑まれ、柘榴は言葉に詰まった


カリオンのように手荒く扱ってくれれば柘榴としても抵抗のしようがあるのだが、こうも優しくされては調子が狂う



誘拐されたはずなのに、VIPな待遇に戸惑う柘榴であった




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あきゅろす。
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