ルチフェルの泪とサタンの唄声
01
「それで、犯人側は何と…?身代金の要求ですか?それとも綱吉の首が目的ですか?」
「残念だけど、まだ何も分からないんだよ。取り敢えずあの旅館で柘榴が誘拐されたって事しか」
旅館内を隈無く探し、柘榴が確かにそこに居ないと結論付けたツナ達は早々にボンゴレ屋敷に戻った
完璧な設備と戦力を備えた本部でなければ、万が一の時に対応しきれないと判断したのだ
「今雲雀さんが連れ帰った女に情報吐かせてるよ。…柘榴の脅しもあるから、多分すぐにどこのファミリーか吐くだろうけど」
その言葉に怪訝そうな顔をした骸とリボーンを他所に、ツナは会議室の大きなモニターに視線を移した
そこには縛られた状態で固まっている女二人と、その前にトンファーを構えて仁王立ちする雲雀が映し出されている
いつもにも増して得物を握る手に力が込められている雲雀を目の当たりにし、女達が白状するのは時間の問題だろう
欲しい情報さえ手に入れられれば、後は女達がどうなろうとツナはどうでもよかった
新薬の実験台にされようが、このまま雲雀の憂さ晴らしに殺されようが、彼女達はそれだけの大罪を犯したのだ
命を掛けてでも償ってもらわなければ。ツナは勿論幹部達も、このまま生かしておく程の慈愛は持ち合わせていなかった
「あいつが脅した…?どーいう事だ、ツナ」
「…拷問の時の記憶が戻ったらしいんだよ。雲雀さんの拷問は、痛いなんてもんじゃないって。
俺達は隠語を使ったのに、柘榴はその意味も理解してた」
はっと息を呑んだのは骸だけでなくリボーンもだった
あれはボンゴレの名に傷が付いてもおかしくない失態だった。十代目ファミリーを育てて来たリボーンにとって、被害者がどんな行動を取るのか予測できないのは今後の活動に大きく影響する
しかし、今はそれよりも柘榴榴が誘拐されてしまったという事の方が重大な問題だった
もし柘榴の命を盾に破格の金銭を要求されたら。もしボンゴレファミリーの十一代目としての権限を請求されたら
恐らくツナはそれに応じるのだろうとリボーンは思った
例え己の命を差し出せと言われても、柘榴が無事ならとツナは自ら首を切り裂く可能性すらあった
「…おいツナ、なんか打開策はあるんだろうな」
リボーンとしては、何としてでも最悪の事態だけは避けなければならなかった
元家庭教師としてのプライドと責任がある。九代目や歴代のボス達に顔向けできないような事は何としてでも回避しなければならない
「…柘榴の浴衣に、発信器が付けてある。隼人が今居所割り出してるし、それでアジトは分かるよ。
後は雲雀さんがファミリー名は吐かせるだろうし、そこから相手を脅せるだけの情報[ネタ]を集める。大体の検討は付くし、今山本に調べてもらってるから」
何がなんでも、柘榴は無傷で取り戻す。そう力強く言い放ったツナに、それでは駄目なのだという言葉をリボーンは必死に呑み込んだ
柘榴は所詮ただの使用人にすぎない。ツナ達がどんなに大切にしていたとしても、替えのきく存在でしかないのだ
少なくともリボーンにとってはそうだったし、ボンゴレにとっても柘榴は“使用人”の枠を越える事は無い
一方ツナはボンゴレファミリーの頂点に君臨するボスなのだ。たかが女1人の為にアツくなるのではなく、冷静にファミリーの為になる結果を考えなければならない
何万というファミリーの為なら、女の1人くらいは見殺しにできる。そのくらいの非道さを持つ事も時と場合により必要だった
『…綱吉、聞こえるかい?』
モニター越しに、雲雀が問い掛けた。ツナが肯定の返事をすると、1つ大きく息を吸った雲雀が重々しく告げる
『奴らはトーポだよ。…決着を着ける時が来たみたいだ』
険しい表情で告げた雲雀にツナも同じ顔で頷いた
いつまでも逃げ続ける事はできない。そろそろ覚悟を決めて、向き合わなければならないかもしれない
バタン、と荒々しくドアを開けて入って来た獄寺は、普段は掛けない眼鏡を着用してコンピューターをツナに差し出した
「十代目、衛星がようやく柘榴の居場所を捕らえました。ここから北に約60キロ程行った所にある、“蕀城”[イバラジョウ]と呼ばれる城のようです」
「こっちも調べられたぜ。トーポは裏で麻薬や人身売買に手を染めてる。復讐者を呼んでも良いくらいだな」
恐ろしい程に一致団結したボンゴレ幹部達は、約1名を除いて同じ目的の元に立ち上がった
「…隼人、車の準備を。今すぐその蕀城に向かう」
地下から戻った雲雀も合流し、ボンゴレ一行は蕀の城へ車を走らせた
《†next†》
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