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ルチフェルの泪とサタンの唄声
11



骸に命を救われてから早10年。骸は髑髏の全てだった


今こうして生きていられるのも骸の完璧な幻術で創造された内臓のお陰だし、捨て去られた存在価値を再度見い出してくれたのも骸だった



髑髏の世界の中心は、骸だった



彼こそが髑髏にとって神であり、居るか居ないかさえ分からない目に見えぬ神様に願いを唱えた事は無い


それでも、骸は髑髏のどんな小さな願いも望みも叶えてくれたし、仲間も居場所も幸福も与えてくれた



だから今度は、自分が恩返しをする番だと思ったのだ


与えられるだけではなく、自分も何かしら骸の役に立たなければいけないと


だから、近頃任務の最中でも骸を困らせている悩みの種を排除しようと、無い知恵を絞って努力したのだが


−−もうお前の顔も見たくありません





どうして、こんな事になってしまったのだろう



















「ところで六道。君、クロームがどこに居るか分かってるの?」



柘榴が骸を手当てするのを面倒臭そうに眺めていた雲雀が、唐突に口を開いた


どうやら出血は酷いが傷は大した事無いらしい、と内心安堵していた柘榴は一瞬胸を過[ヨギ]った嫌な予感に骸を見つめた



「どうでもいいけど、早く呼び戻さないとマズいんじゃない?」



どうでもいい、と言いつつ暗に雲雀は骸に探しに行け、と促していた


きゅっ、と最後の包帯を巻き終えた柘榴は、治療に使った道具を救急箱に仕舞いながら立ち上がった



「……柘榴…?」


「私が行きます、骸さん。必ずクロームさんを見付けますから」



驚きに目を見開いた骸とは対照的に、雲雀は剣呑に眉を吊り上げる


返事も待たずに歩き出そうとした柘榴の腕を咄嗟に掴み、その場に引き止めた



「…駄目だよ、柘榴。いくらなんでも危険過ぎる」



じっと見下ろした柘榴はいつもの無表情の中にどこか焦りを滲ませていて、純粋に髑髏の心配をしている事が見受けられた


しかしだからと言って、何度も柘榴を殺そうとした髑髏の元に、そう易々と柘榴を向かわせる訳にはいかない



「雲雀さん、お願いです。行かせて下さい」


「駄目だ。…六道はクロームと意志が繋がってる。柘榴が探しに行かなくてもすぐに見付かるよ」


「そういう問題じゃなくて…。私が、クロームさんと話をしたいんです」


「だったら今じゃなくても、また次の機会でも良いはずだよ。とにかく君はここに居て」



雲雀は無理矢理柘榴をソファに座らせ、動けないようにと細い腰に腕を回した


目線だけで骸にさっさと行け、と指示し、身動いた柘榴を鋭く睨み付ける


うっ、と柘榴が言葉に詰まる様子を黙って見ていた骸は、重い息を1つ吐いてから痛む体を持ち上げた



「…柘榴、クロームの事は僕に任せて下さい。ちゃんと和解してきますから」



弱く微笑んだ骸は、意識の奥底で髑髏がどこに居るかを探りながら、そのままドアへと向かう



「骸さんっ」



最後の抵抗、とばかりに柘榴が骸の名を呼び、骸はそれに応えるようにソファに座る二人を振り返った



「骸さん、私に行かせて下さい。私、…クロームさんと、お友達になりたいです」



矢継ぎ早に柘榴が言った言葉に驚いたのは、骸だけではなく雲雀もだった


優しく慈愛を持って接する雲雀やツナには興味を示さない柘榴が、まさか髑髏と友達になりたい等と言うとは予想していなかったのだ



「今骸さんが行っても、きっと逆効果です。…お願いします、行かせて下さい」



じっと骸と雲雀の目を真正面から見つめ、柘榴は二人に懇願した


そのまっすぐな願いは頑なだった雲雀の胸を打ち、説得を求める柘榴に雲雀は骸に視線を泳がせる


しかし、





「……柘榴の、言う通りにしましょう」



雲雀の意に反して、骸は柘榴の頼みを呑んでしまった


雲雀がひくっと顔を引き吊らせた傍らで、柘榴は嬉しそうに顔を輝かせた



「良いんですか、骸さんっ」


「ええ。但し、もうこれ以上怪我をしないと約束して下さい」


「…極力、努力はします」



今までの事を思い出したのか、柘榴は瞬時に顔色を曇らせた


しかし骸はそんな柘榴を安心させるようににっこり微笑み、優しく頭を撫でる



「幸いクロームの三叉槍はそこに落ちたままですし、彼女の能力[スキル]は僕の方で使えないよう封じておきます。だから安心して下さい」



そんな骸の言葉に柔らかく笑みを浮かべ、柘榴は骸の部屋を後にした





残された骸は雲雀の座るソファの若干離れた所に座り、3つ穴の開いた腕を見つめた


包帯の上からでは分からないが、未だにずきずきと鈍く痛む腕には確かに穴が貫通しているのだ


どんな難しい任務でも、こんな傷を負った事は無かった


咄嗟に柘榴を庇おうと腕を出したのだが、あの時は痛みなど感じず、むしろ柘榴が無事だったという事実に大きな安心を覚えた程だった



「名誉の負傷、ですね…」



骸が満足そうに呟けば、それが気に食わなかったのか雲雀は取り出したトンファーで骸の頭を小突いた



「痛っ…!!何するんですか、雲雀くん!!」


「五月蝿いな、君のその態度の変わりようはなんなわけ。鬱陶しいんだけど」


「…雲雀くんには、関係ありません」


「なに、もう1発殴られたいって?」


「痛い痛い!!もう殴ってるじゃないですか!!」


「で、君の奇行の原因は?」


「……僕の事は無視ですか…。はぁ、まぁ良いですけどね。

昨日千種に任務中に言われたんです。僕の話を聞く限りでは柘榴と僕が非常に似ていると。1度ちゃんと話してみれば苛々も取れる…だから痛いですって!!」



真面目に語っていた骸はぽかぽかと殴られ続けるトンファーにいい加減嫌気が射し、再度降り下ろされたそれを掴んで阻止した



「君は本当に目障りだよ。




……でもまぁ、良かったんじゃない?」





薄く笑った雲雀に、こんな一時[ヒトトキ]が何よりも幸福なのだと骸は思った




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あきゅろす。
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