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ルチフェルの泪とサタンの唄声
07



“完璧”とはなんだろう


“理想”とはなんだろう


所詮ヒトが思い描くモノに、大した価値など無いと分かっているのに


例え其処に辿り着けたとしても、上を見上げればまだ路は続いていると知っているのに


何より、どんなに理想に近付いても、どんなに完璧に取り繕っても、1番手に入れたいものには決して届かないと、知っていたのに



それでも“あたし”が“あたし”の意思を貫いたのは、他でもなく“彼”の為だった
















骸1人で食事をさせるのも気が引けたので、というよりも強制的に座らされたので、柘榴は骸と向かい合って夕食を摂っていた


今までの態度とは打って変わってにこにこと終始笑顔で柘榴と接する骸は、正直言って不気味だった


彼の中で一体何が起こったのか不思議でならないが、機嫌良さそうに箸を進める様は変わらず優雅だった



「そういえば、柘榴と食事するのは初めてですね」


「…そうですね。皆さんとは時間帯をずらして食事してるので」


「今日も美味しいですよ。柘榴の腕は世界一ですね」


「……ありがとうございます」



不気味、というより最早気持ち悪かった


これなら以前のように敵視されていた方が幾分マシだったかもしれない、と柘榴は内心涙する



「所で柘榴、エントランスに飾られてる花は柘榴が生けたんですか?」


「あ、はい。お花屋さんが来なくなってしまったので」


「…そういえばそうですね。しばらく外部の業者は雇わないと綱吉が言ってました」


「何も無いと寂しいので、お庭に咲いてるものを生けたんですよ。あれなら長持ちするので楽なんです」


「どうりで花が生き生きしてるはずです。流石柘榴ですね」


「…ありがとう、ございます…?」


「今夜は二人きりですね」


「は、……」




唐突に、骸の奇妙な発言を聞いて柘榴は固まった


それはもう見惚れる程の満面の笑みで、非常識なニュアンスを含んだ事を言わなかっただろうか



「アルコバレーノと山本武と獄寺隼人は出任務、雲雀くんと綱吉は犯人探しでしょう」


「いや、まぁ、そうですけど」



何故か嫌な空気を感じ取り、柘榴は張り付けた無表情の下から骸の顔色を伺った



「…ツナさんと雲雀さんが犯人を捕まえてくれるんですし、私部屋で寝ても、」


「いいえ、いけません。まだ完全に危険が去ったとは言い切れないんですよ。

今夜は僕の部屋に来なさい」



そっちの方が危険です、と出掛かった言葉を、柘榴は必死にパスタと一緒に呑み込んだ















そろり、と1階の窓から侵入した黒い影は、辺りをきょろきょろと伺ってから物陰に隠れながらある場所を目指した


偶然鍵が掛かっていなかったそこから侵入する事は意図も簡単で、あの使用人が自らのミスで自分に殺されるのだと思うと腹の底から高笑いしたくなった



昼間は上手くいった、とほくそ笑む。まんまとボンゴレボスと邪魔な雲雀恭弥を屋敷から追い出す事に成功し、今はあの使用人と大切なあの人だけしか居ない


もうすぐ自分の計画は成功する


そうしたら、あの人は
















「…骸さん、近いです」


「クフフ…、気のせいですよ」



シャワールームから出た柘榴は、同じタイミングでバスルームから出て来た骸に何故かベッドに押し倒されていた


1つの部屋にシャワールームとバスルームが完備されている事に大きな疑問を感じるが、今はそんな事よりもっと重要な事があった



「ドライヤー、使いたいんですけど」


「そんな物使わなくても、濡れた髪なんてすぐに気にならなくなりますよ」



ラフなスラックスだけを履き、上半身裸な骸に覆い被され、いつものように丈の長いシャツ1枚だけを羽織った柘榴は身動きを取れずに固まっていた


柘榴の顔の両側に手を付き、わずかに開かれていた膝を更に自分の足で割り閉じれなくする


微かだが動揺しているようにも見える柘榴の白い頬を、滑らかな指先で艶やかに撫で上げた



「…君は、本当に美しいですね。それこそ、僕のように穢れてしまった人間には痛いくらいに」



紅と蒼の瞳で見下ろせば、柘榴の身体がひくっと硬くなったのが分かる



「ねぇ、柘榴。君は、……僕を、受け入れてくれますか?」



撫でられる箇所に集中していた意識を骸へと向けた


見上げた紅と蒼は、何故か泣きそうに歪んでいて。いつだったか同じ光景を見た気がする、と柘榴は朧気に思った




「柘榴。君は、君だけは、僕を嫌悪せず側に居てくれますか…?」


「む…」



開き掛けた唇はすっと動いた骸の指によりそのまま硬直した


自分から訊いておきながらそれでも答えられる事を拒むような指先は、何度も柘榴の唇をなぞる



「ねぇ柘榴。僕は、…怖い、んです……」




ぽたっ、と柘榴の頬に透明な雫が落ちた



「お願いです。…僕を、拒まないで下さい…」



まるで涙のように骸の長い髪から滴る雫を言葉も無く見つめていると、不意に骸の指が中途半端に開いていた口に侵入した


それだけではない。あろうことか骸は柘榴の胸元に顔を埋め、白い肌に真っ赤な印を付け始めたのだ



「…んんっ……!!」



舌に絡められる長い指のせいで上手く言葉を発せない


淫らに動く骸の腕は徐々に柘榴のシャツをはだけさせていき、しかし柘榴は抵抗できずにいた


骸の纏う雰囲気から、そんな事はできなかったのだ



「はぁっ…、柘榴……」



仰け反った首に吸い付かれ、柘榴の全身に鈍い電流が伝う


それをシーツに爪を立てる事で必死にやりすごし、柘榴はひたすら熱に浮かされない様耐えていた


骸が柘榴のシャツの釦に手を掛け、柘榴が諦めかけたその時





−−−カシャ…ン


「…っつ……!?」




聞こえた物音に一瞬で飛び起きた骸は辺りを鋭く睨み警戒した


この屋敷には自分達以外居ないはずだ。だったら今の音は−−?


ちっ、と軽く舌打ちし、雲雀達が犯人を再度取り逃がしたのでは、と内心悪態を吐いた





「…僕は少し様子を見て来ます。君はここに居なさい。決して部屋から出るんじゃありませんよ」



近くに畳まれていたシャツを着込み柘榴を振り返れば、シーツで身体を隠し小さく頷いていた


足早に部屋を出た骸はガチャンと外から鍵を掛け、再び侵入した犯人を捕らえに暗闇の中に溶けた



部屋に残された柘榴が、何か言いたそうにしていた事など気付かずに




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