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ルチフェルの泪とサタンの唄声
05



雲雀は傍らに柘榴を連れ、ゆっくり歩いて屋敷を目指していた


途中までは当然走っていたのだが、常人の柘榴が雲雀のスピードに付いて行けるはずがなく


しかし遅れを取る事を柘榴のプライドが許さなかったせいで無理矢理走っていたため、比較的早い段階で柘榴の息が切れてしまったのだ



雲雀達が居た所から屋敷まではそれなりに距離もある


今走って行っても犯人は既に捕まっているだろう、と雲雀はこうして柘榴に合わせて歩いているのだ




ここで犯人を捕らえられた事により、今夜骸が柘榴の護衛に付く事は免れた、と雲雀は内心ほっとしていた


自分の部下が柘榴に手を出していたなんて信じられなかったが、それでも。柘榴と骸が二人になるという危険は回避できたのだ






「綱吉、」



屋敷に入ってすぐ、柘榴の部屋に通じる廊下とは別の廊下で、ツナと獄寺に出会[デクワ]した


恐らく彼らも警報器の音でここに駆け付けたはずだ。ならば、と捕らえられたはずの犯人を探すが





「……綱吉?」



雲雀の目の前には、憤慨した様子で突っ立っているツナと、おろおろとツナの顔色を伺っている獄寺しか居なかった



「ちょっと、綱吉。どういう事?まさか君とその忠犬が二人揃って、犯人取り逃がしたわけじゃないよね?」


「………そのまさか、だよ」



握り締めた拳を怒りに震わせながら、ツナが苦々しそうに呟く



「…ふざけるな」


「おいっ、雲雀!?」



次の瞬間、気付いた時には雲雀がツナの胸ぐらを掴んで壁に押し付けていた


当然首元にはトンファーを突き付け、それを見た獄寺が激怒して雲雀に掴み掛かろうとするが、雲雀がトンファーをツナに押し付けると呆気無くその場にとどまった



「君、自分が何を仕出かしたか分かってる?柘榴を危険に晒した犯人を取り逃がしたんだよ、そんな失態が許されるとでも思ってるの。

…ボンゴレ十代目が聞いて呆れるよ」



頭1つ分は高い所から自分を睨み付ける雲雀の目を見つめ返す事無く、ツナはじっと雲雀の胸元辺りを睨んでいた


いつもなら挑発的に雲雀を睨み返すのに、今回ばかりはそんな事はできなかった



自分の愚行を最も恥じているのは、ツナなのだ



やっと柘榴に平穏をもたらせられると、この手で犯人を捕らえられると思ったのに。取り逃がして、しまうなんて






「……自分の部下の不始末で、柘榴に被害を出した雲雀さんには、言われたくない」



ツナが悔し紛れに発した一言により雲雀は完全に切れ、とうとうその手に握るトンファーをツナに振り降ろそうと高く上げた


ツナはXグローブで防御しようともせず力無く立ち竦んでいるだけで、獄寺が慌てて止めに掛かっているが雲雀の攻撃の方が速かった



間に合わない、と獄寺が思わず目を瞑った、その瞬間





「雲雀さん。これ、何だと思います?」



明らかに空気を読んでいないと思われる声によって、ツナに触れるか否かギリギリの所でトンファーが静止した



「…柘榴、今ちょっと取り込んでるんだけど」



やけに静かだと思ったら、柘榴は床に落ちている何かを発見したようだった


雲雀の視界の縁[フチ]に映った柘榴は、しゃがみこんでその何かを突っついていた



「でもこれ、犯人の落とし物だと思うんですけど」


「え…?」



柘榴の言葉に雲雀はあっさりツナを放し、すぐさま柘榴に駆け寄った



「女物の、でも私のじゃない。ここは午前中に掃除したばかりだからそれ以前に落としたはずがない。

…これで犯人、捕まりませんか?」



柘榴が雲雀に差し出したのは、1つの小さなピアスだった


キャッチ部分は見付からなかったのか白いハンカチに包まれてはいなかったが、確かにこれは女が付ける物だろう



「…おい雲雀。てめぇの部下で、それ付けてる奴覚えてねぇのか」


「部下が身に付けてる物なんて一々注視してないよ」



柘榴がわざわざ指紋を付けないように、とハンカチに包んであったピアスを躊躇いも無く掴み上げ、雲雀はにんまりと笑った



「でも、」



ツナを介抱していた獄寺は不審そうに雲雀を見やり、その後雲雀の隣に立つ柘榴に目を向けた



「僕に女の部下は少ない。証拠があるならすぐにホシは上がるよ」



雲雀はすっかりツナへの敵対心を無くし、今は完全に犯人を捕らえられる、というある種の高揚感に満ちていた



キレた雲雀は止められない。それは長年共に闘ってきた獄寺でも不可能だし、その可能性を持つのは骸かリボーンだけだった


そんな雲雀の怒りをもろともせずに、柘榴は簡単に雲雀の中の殺意を消し去ってしまった



そして、雲雀はその事実に気付いていない



獄寺は柘榴に対して畏怖に近いモノを感じ、思わずツナを支える手に力を込めてしまった




何よりも、柘榴が無意識の内にそうしている事が怖いのだ、と




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あきゅろす。
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