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ルチフェルの泪とサタンの唄声
02



ツナは自室のソファに座り、いや、時折忙しなく立ち上がり、辺りをきょろきょろ見渡して落ち着かない素振りを見せていた


カタン、と聞こえた物音に、心臓が異常なまでに跳ね上がる



(落ち着けよ、俺っ…!!)



柘榴がもうすぐ、バスルームから出て来てしまう。…そうは言っても促したのはツナ自身なのだが



柘榴の安全と犯人確保の為に夜の護衛を請け負った所までは良かったのだが、ツナには色々考えが足りなかった


夜の護衛、という事は。つまる所一夜を共にするという事で


ツナは今夜を無事に乗り切れるか自信が無かった。それは勿論、数多の意味合いで



今こうして柘榴が自室でシャワーを浴びているという状況だけでも充分緊張しているのに、もし彼女が髪が濡れたままで出て来たりしたら…−



ガチャッ、



「ツナさん、お風呂有難う御座いました」




バスルームから出て来た柘榴を見た瞬間、ずくん、と下半身が唸った


これは、ヤバい。色々な、そう、色々な意味で柘榴はヤバかった


黒いバスローブを纏っただけで、普段は高い位置でくくられている髪は当然下ろされている


そこまでならまだ良かった。しかし柘榴の髪からはぽたぽたと水滴が垂れ続けていて、柘榴はぞんざいにそれをタオルで拭いている



温かい湯のお陰で上気した紅の頬。すらりと伸びる手足


ツナは彼女を見た瞬間、簡単に限界を向かえてしまった






「…ツナさん、どうしました?」



自分を見たまま固まってしまったツナに、柘榴は視線を投げた



「いや、えっと…」



言葉に詰まった彼を見て、柘榴はツナの見えない所で苦笑する


こういった事には慣れていそうなのに、意外と初[ウブ]なのだろうか


顔が赤くなったツナが慌てふためいているのを眺めながら、髪を拭いていたタオルをソファに掛けた



「ほら、ツナさんも早く入って下さい。お湯冷めてしまいますよ?」



柘榴が出る前に入れ替えられたバスタブの湯は、柘榴の嗜好で沢山の白い泡が浮かべられている



柘榴に言葉で背中を押されて、ツナはタオルと自分用のバスローブを持ってバスルームに逃げ込んだ


バタンとドアを閉じてから、何か言い忘れた事に気付いて再びドアを開いた



「先、寝てていいからな!!」



半ば叫ぶようにして、再度バスルームに戻る



薄いドアの向こうで顔を真っ赤にしているツナは、柘榴が笑っていた事を知らない



















ざあぁっと頭から、少し温めの湯を浴びる


引いていく熱と体温に、ツナはほっと胸を撫で下ろした



いや、危なかった。マジで危なかった



もしあのままあの場に居たら、何か間違いが起きてしまっていても不思議は無かったと思う


自分の理性と自制心を、心の奥底から誉めてやりたいとツナは思った





−−しかし



(柘榴の身体、未だに傷だらけなんだよなぁ…)



普段の生活で柘榴が微塵もそんな素振りを見せないせいで忘れがちだが、柘榴はここ最近生傷が絶えないのだ


柘榴も多少意識しているのか、わざと丈も袖も長いワンピースを着用していた


長さのバリエーションは豊富なあの制服の中からわざわざあのタイプを選んでいるという事は、ツナ達から見えないように隠そうとしているという事だ



そう、隠そうと。ツナは柘榴が受けた嫌がらせの全てを知らない


柘榴は決して、自分からそれらを口にしようとはしないし、話したとしてもその末端だけなのだ





…何故、正直に、真っ先に、相談してくれなかったのだろう


柘榴が殺され掛ける前に受けていた嫌がらせの数々をツナ達が把握していたならば、少なくともこの屋敷への女性の出入りを制限できたはずだ



しかし殺され掛けた今でも、柘榴は全てを語ろうとはしない。きっと、ツナがきつく問い詰めでもしない限り、柘榴は白状しないだろう



柘榴は元々、他人を頼るような子ではないと思う。自分でできる事は自力でやるし、もしできない事があったとしても他人に訊く前に必ず自分でやろうとする


それは決して悪い事ではない。むしろ自律性や向上心があって良い事なのだが





その結果が、必ず良い方に転ぶ可能性は低いのだ


現に今、誰もが皆嫌な思いをしているというのに



柘榴は何を考え何を思っているのだろうか。日に日に強く感じる柘榴との壁を、不快に思っているのは自分達だけなのだろうか






ツナは深く入り組んだ迷路に迷い込んだ気がして、はぁと溜息を吐く



どっちにしろ、今探している犯人が見付からない事には先に進めないのだ



勢い良くバスタブから上がったツナは、この後ツナの言い付け通り先に寝ていた柘榴の寝顔と、自分の理性との葛藤が待ち受けている事を知らない




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