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ルチフェルの泪とサタンの唄声
01



「な−な−、これはどーやってやるんだ?」



キングサイズの大きなベッドシーツを両手で広げ、山本は困ったように傍らの柘榴に問い掛けた



「シーツはそのまま竿に干してパンチで止めて下さい。

…あぁっ、竿は1度拭いてからですよ」



自分は山本とは違う物を干しながら、それでも決して山本から目を離さずに柘榴は淡々と洗濯物を干していく


ツナが宣言した通り、結局柘榴には護衛役が付く事になってしまった


取り敢えず今日は、任務も無く情報収集にはあまり向かない山本が、柘榴の身を護る事になったのだ



柘榴はただ側で見られているだけだろうと思っていたのだが、山本の性格からして何もせずに居るはずがないのだ


黙々と自分の仕事とこなす柘榴を見ていた山本は、然り気無く自然な動作で柘榴の仕事を手伝い出した



まずは食器洗い、掃除、そして洗濯。初めは躊躇っていたのだが、山本が次から次へと笑顔で仕事を奪っていくので、柘榴も既に遠慮するのを諦めていた





しかし、



「山本さん、こんな状態じゃ駄目ですよ。干す時にちゃんと皺を伸ばさないと、乾くとしわくちゃになってしまうんです」



どうやらやる気はあっても、彼は一般常識というかまともな家事のやり方を知らないらしい


柘榴が一通り説明したとしても変な所で奇抜な事を仕出かし、更には予想外の結果になるのだ




「…山本さん山本さん!!どうしたら干した物の上から更にもう1枚干そうだなんて思えるんですか!?」



少し注意を逸らしているとこれだ。普段柘榴1人で仕事している時よりも大分時間がかかり、更には大分疲労している


流れてもいない額の汗を拭い、柘榴はこれからの不安から溜息を吐いた


きっと今日は予定の半分も終わらないだろうな、と



























「……疲れた」



ツナの部屋で肩までどっぷりバスタブに浸かりながら、柘榴は小さく呟いた


自分でやったのは日頃の半分以下の量の仕事のはずなのに、いつもよりも疲れているのは何故だろう



自分のものより5倍はありそうなバスルームの中の、最早バスタブではなく小さめのプールではないのかと疑いたくなるバスタブの片隅で、柘榴はその真っ白な天井を見上げた



なんだろう、この馬鹿みたいな広さのバスルームは


こんな部屋ばかり持っているから、どんなに高性能のセキュリティを設けた所で護りきれないのだ



柘榴が使うには余りにも豪勢過ぎる金縁のシャワーで頭から湯を浴びる。適度な温度が気持ち良い



柘榴がツナ達に提案した“囮作戦”は、文字通り柘榴を餌に犯人を誘き出そうという単純なものだった


山本が傍らに居る事を警戒してか、今日1日はこれまでの事が嘘のように平和に過ごす事ができた




…という事は犯人は山本絡みの女ではないのか、と判断する。もし山本に想いを寄せる人ならば、四六時中柘榴が山本と居ることを許しはしないだろう


今こうして柘榴が1人で風呂に入っていても、柘榴が立てる物音以外は一切しない。つまりツナ絡みの女性でもないのだ





全員に護衛を務めてもらうまで、柘榴が1人になれるのは風呂とトイレだけだった


勿論それは柘榴の提案した作戦の一部だったし、柘榴も十分納得してこの作戦を決行したのだが


常に誰かが側に居る、というのは予想以上にストレスだった



元居た世界でもそれほど他人と仲良くしていたわけでもない柘榴は、傍らに誰かが居るという状態に疲れ果ててしまったのだ


今日は山本だったから会話もあったし和やかな雰囲気だったが、もしこれが骸やリボーンだったら。その事を思うと胃がキリキリと痛む



柘榴は彼らの反応をそれほど気にしてはいないのだが、やはり気まずいのだ


そもそも彼らは柘榴を“護衛”してくれるだろうか。殺されそうになっても放置されたり、あるいは彼ら自身が直接手を下しにかかるかもしれない







そうなったら、きっと、







「柘榴、まだ出ない?」



不意にドアの向こうからツナの声がした。いくら女の風呂が長いとはいえ、余りにも長すぎるので何かあったのかと心配になったのだろう


小さくノックしたままその場に佇む彼は、こちらからの応答を待っている



「……すみません、もう出ます」



深く考え込み過ぎて、いつの間にかバスタブの湯も温くなってしまっていた


若干篭[コモ]った柘榴の声を聞いたツナは、ほっとした様に脱衣場から出て行き、柘榴は再度シャワーで体を暖めてからバスルームを出た






鏡に写った柘榴の体には、まだいくつもの傷痕が残っていた




《†next†》

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あきゅろす。
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