ルチフェルの泪とサタンの唄声
03
「やぁ、起きたかい?」
庭で寝ていた少女を客室のベッドに寝かせて数時間経った頃、ようやく少女が目を覚ました
しばらく視線をさ迷わせて部屋を一通り見回した少女は、最後にベッド脇の椅子に座る雲雀を見た
「……あなた、死神?」
「は?」
思いの他しっかりした口調で、全く予想外の事を言われ雲雀は間抜けな返事をしてしまった
「最近の死神は変わってるのね。あたし、死神って骸骨で、フード付きの黒いマント着て、大きな鎌持ってるものだと思ってたわ」
「君、頭大丈夫?」
ファンダジックな事を真顔で言う少女は、開いた瞳まで綺麗だった
栗色のロングヘアーに漆黒の瞳。どこをどう見てもマフィアには見えない
「頭?あぁ、大丈夫じゃないかもしれないわね。打ち所悪かったもの」
表情を変えずにそんな事まで言い出す少女に、どうしようかと考えていると、部屋のドアが開いた
「良かった。目覚めたんだ」
にこり、と微笑んで入って来たのは沢田綱吉。雲雀からしてみればこの少女を預けて自分はさっさと執務室に戻った無責任な奴だ
「あら、死神が増えたわね」
「は?」
こてん、と首を傾げる少女にツナも間の抜けた声を発した
「雲雀さん、これどういう事?」
「知らない。むしろ僕が聞きたいよ」
雲雀は隣に椅子を引いて座る綱吉を睨む。起きて開口一番雲雀を死神だと言った少女を、雲雀が理解しているはずがない
「えっと、君名前は?」
当たり障りの無い所から切り崩すつもりなのか、少女の発言を軽く無視してツナが笑顔で聞く。が、
「名前?それを調べるのは貴方達の仕事じゃないの?」
少女は無表情のまま言った。ひくり、とツナの笑顔が引き吊る
「…じゃあ、君はどこから来たの?」
「そのくらい調べなさい。職務怠慢はいけないわ」
勿論雲雀達はマフィアなんだからそのくらいは調べられる。しかしボンゴレボスを目の前にしてこの態度な無いだろう
「素直に話した方が身の為だよ?」
ツナの笑顔がすっ黒くなる。それを感じ取ったのか、ツナの言葉に引っ掛かる物があったのか、少女の表情が始めて変わった
「ここ、どこ?」
少女の表情が変わった事に満足したのか、ツナが笑みを深めた
「質問してるのはこっ」
「ここはどこって聞いてるのよ」
ツナの言葉を見事に遮って、少女は先程までより低い声で繰り返す
「……ボンゴレファミリーの本部だよ」
しばらく少女の真っ直ぐな視線を受け止めていたツナがゆっくりと言った
ツナの言葉に驚いた表情を見せる少女。しかしそれも一瞬の事で直ぐにまた無表情に戻った
「あさり家族?本部?
…貴方達、死神じゃないの?」
「残念だけど俺らは人間だよ。で、君の名前は?」
笑顔のまま聞くツナの質問をあっさり無視して、少女は顎に手を当て何やら考え出した
「ここ、日本?」
「こっちの質問に答えてくれる?」
どこまでも無視を続ける少女に、笑顔のままツナがキレた
笑顔が黒くなった事に気付いたのか、少女はツナをじっと見詰めた
「悪いけど、見ず知らずの男に個人情報を簡単に教えるほどあたしは安い女じゃないわ」
はっきり言い放った少女とツナの間で小さな火花が散るのを見て、雲雀は内心ため息を吐いた
「……綱吉」
落ち着きなよ、と言うと、落ち着いてるよ、と返って来た
「君の質問に答えたら、こっちの質問にも素直に答える?」
綱吉を静止しつつ言うと、少女は小さく分かった、と答えた
「雲雀さんっ」
咎める様に名前を呼ばれるが、雲雀は気にしなかった
「ここはイタリアだよ、日本じゃない。ついでに言うと君は庭で寝てたから客室に運んだんだ」
「雲雀さん!!」
ツナを無視して雲雀が少女の質問に答えると、がたんと音を立ててツナが立ち上がった
「……落ち着きなよ、綱吉。ボディチェックはしたけど、危険な物は何も持ってなかったし、もし僕らを狙った刺客ならもう少しましな反応すると思うよ」
言い聞かせる様に言うと、それが正論だと認めたのかツナは静かに座り直した
「それで、他に聞きたい事は?」
黙って僕とツナのやりとりを見ていた少女に向き直る
「今って西暦何年?」
「20XX年3月15日」
「イタリアの首相は?」
「イルボレーン」
「最近行われたオリンピックは?」
「N.Y.五輪」
「東都って知ってる?」
「知らないね、聞いた事も無い」
矢継ぎ早に雲雀に質問を浴びせた後、少女はじっと口を閉じて考え出してしまった
他に何もできない雲雀とツナは黙ってその様子を見ていた
「あたしの記憶が正しければ、」
唐突に少女が口を開いた
「あたしの記憶が正しければ、ここは日本で20**年だしイタリアはアポカリプスが治めてるしこの間ペルーでオリンピックやったばかりであたしは東都の桜坂に住んでたの」
いきなり饒舌に話し出した少女について行けず、雲雀とツナは呆気に取られている
「平行世界って言うのかしらね、こういうの」
1人納得している少女に、先に正気に戻った雲雀が食って掛かった
「ちょっと君、ふざけてるの」
素早くトンファーを取り出した雲雀を、今度はツナが抑えた
「ちょっと待って、雲雀さん。この子は嘘吐いてなんかないよ」
「…超直感?」
「うん」
苦笑するツナの持つ超直感は信用できる、と雲雀は構えていたトンファーを降ろした
「それじゃあ、君の名前を教えてくれる?」
1人蚊帳の外だった少女に向き直りツナが聞く。すると少女は微かに驚いた顔をしてツナを見た
「……信じるの?」
どこか不安気な少女に微笑んでみせると、ほっとした様な表情になる
「柘榴。大鳳柘榴よ」
「そう。彼が雲雀恭弥で俺は沢田綱吉。宜しくね、柘榴」
にっこり微笑んだツナに、柘榴は小さく頷いた
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