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ルチフェルの泪とサタンの唄声
05



「じゃあ、皆に自己紹介して」



ツナの言葉で1歩前に出た少女は、5人の視線にも脅える事無く堂々していた



「はじめまして、大鳳柘榴といいます。今日からお世話になりますので、よろしくお願いします」



黒いスカートの裾を上品に持ち上げてお辞儀をした柘榴を、計10個の瞳が見つめた


柘榴が着ていた服は寒過ぎるということで、衣装室にあった服に着替えている



「クフフ…今度は随分可愛らしい方ですねぇ」



舐めるような視線にも



「てめ−、十代目の右隣に立つんじゃねぇ!!」



怒りに満ちた視線にも



「落ち着けって獄寺。柘榴が怯えるだろ?」



空気を読めていない視線にも



「なんだダメツナ。まさかこんなくだらねー事のためにオレ達を集めたわけじゃねーだろーな」



明らかに不機嫌そうな視線にも



「………。」



全く興味を示さない冷めた視線にも



一片の感情を表す事無く、柘榴はそこに立っていた



「わざわざ皆を集めたのは知っておいて欲しい事があったからだよ、リボーン」



ツナの言葉に、がやがやと五月蝿かった会議室内がしん、と静かになる



「雲雀さんはもう知ってるけど、柘榴はこの世界の人間じゃないみたいなんだ。

行く当てもないし、どうすれば元居た世界に戻れるのかも分からないし、ここに置く代わりに働いてもらうことにしたから」



それだけだよ、とはっきり言って胡散臭い笑みを溢[コボ]すツナとは対照的に他の守護者達は険しい顔をした



「おいツナ、そいつ身元も保障されてねーのか」


「トリップしてきたこの子のデータなんてこの世界には無いよ、当然だろ?」


「では、その方が嘘を吐いているという可能性は?容易に信じられる話ではありませんね」


「俺の超直感が大丈夫だって言ってるんだ、問題無いよ」


「でもよ、ツナ。他のファミリーに寝返るかもしんねーぜ?」


「そんな事しないように俺が見張るから平気だよ」


「しかし十代目っ。そんな女を十代目のお側に置くのは危険です!!見張りでしたら俺が!!」



目の前で繰り広げられる口論に顔色一つ変える事無く、むしろ自分は無関係だと言わんばかりに柘榴はただそこに立っていた



「そんなに不安でしたら、」



唐突に柘榴が口を開き、ツナ達は全員口を噤んだ



「発信器でも付けておけばいいじゃないですか。ついでに外部との接触を避けるために外出は許可付で誰かの付き添いがなければ禁止。

皆さん幹部の言う事には絶対服従。何でしたら誓約書でも書きますよ」



何をそんなに疑心暗鬼になってるんです?と真っ直ぐ全員の目を見つめる柘榴。そんな柘榴にしばらくの間誰も言い返す事ができなかった



「……本当にそれ、ちゃんと守れるんだろうな」



確認するようにリボーンが呟いた言葉は、柘榴の前では実質的な意味を持たなかった



「勿論です。ここ以外に頼れる場所が無いんですから、自ら首を締めるなんて馬鹿な真似はしません」


「もしおめーがボンゴレを裏切る様な素振りを見せたら、オレは遠慮無くおめーを撃つぞ」


「どうぞ。でも殺すなら綺麗に殺して下さいね」


「……おめー生意気だな」


「良く言われるけど明らかにあたしより年下な貴方に言われたくないわよ」



痛い程の殺気を飛ばすリボーンとそれを受け流す柘榴。2人の間で冷戦が勃発していた



「まーまー落ち着けって。俺は山本武。よろしくな、柘榴」



山本が間に割って入った事により、場の雰囲気ががらりと変わった


山本も柘榴を信用しているわけではないが、そこは彼の持つ性質だろう。この嫌な雰囲気を払拭するのに山本はもってこいだった



「んで、銀髪の奴が獄寺隼人で、オッドアイの奴が六道骸。黒い帽子被ってんのがリボーンな。

あと知ってるみたいだけど壁に寄り掛かってる奴が雲雀恭弥で、柘榴の隣に居る奴が俺らのボスの沢田綱吉。

守護者はあと2人居るけど、長期任務中だから帰って来たら紹介するな」



笑顔の山本の言葉を何度も繰り返し、名前を覚えようとする柘榴



「じゃ、そういう事だから。今日はこれで解散」



ツナが立ち上がるとそれぞれ気だるげに部屋へと戻って行く



「あ、隼人。ちょっといい?」



何かを思い出したツナが獄寺を呼ぶと、それほど距離があったわけでもないのに獄寺がすぐに飛んで来た



「柘榴に仕事教えてあげて。まだ分からない事だらけだろうから、1つ1つ丁寧にね」


「はい」



いつもの習慣で返事をしてから、獄寺ははたと気が付いた。今十代目は何と仰った?



「え、あの…」


「そういう事だから、何か分からない事があったら隼人に聞くといいよ。

柘榴が来る前にここの雑用こなしてたの隼人だし、料理も掃除も完璧にできるから」



獄寺の動揺を気にも止めず、おやすみ、と告げてツナはさっさと廊下の暗闇に消えた



信用のおけない人間の面倒を見るなんて冗談じゃない、と獄寺は思った


元々他人と付き合うのが余り上手くない獄寺は、初対面の女と仲良くする方法なんて持ち合わせていない


普通の女に対してでさえそうなのに、この異世界から来たという嘘臭い少女とどう関係を築けばいいのか



しかし敬愛する十代目ツナから申し渡された事を疎かにするわけにはいかないのだ



「……っおい」



どんなに不服でも、獄寺がツナからの指示を守らないはずがない



「十代目にご迷惑をおかけするような事があったらただじゃ済まさねぇぞ」



ツナの背中を黙って眺めていた柘榴に向き直る。獄寺はこの時初めて柘榴を正面から見た



「朝4時に部屋に行くからな。ちゃんと起きろよ」



わざとどんっと柘榴にぶつかり、獄寺は会議室から出ていく



その背中をやはり黙って見ていた柘榴は、完全にそれが見えなくなってから、重たい息を吐いた



(なんなのよあの空気は)



ボンゴレ守護者達の醸[カモ]し出す雰囲気は、一般人が耐えられるようなものではなかった



重苦しさに加え息辛さがのし掛かり、油断したら呑み込まれそうだった


こんな所で生きられるのか、と疑問に思いながら柘榴はあてがわれた自室に帰る



物凄く疲れた気がする。こういう時はバスタブにたっぷり湯を張って、ゆったり浸かるに限るのだ


獄寺にぶつかられた腕をさすりながら、柘榴はドアを開けた












悲劇は終わらない


喜劇は始まったばかり




《†front†》

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あきゅろす。
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