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ルチフェルの泪とサタンの唄声
03



「…はぁ!?来れねぇだと!?」



ツナの執務室で共に書類を片付けていた獄寺は、シャマルから掛かって来た電話に憤慨して叫んだ



『だぁかぁらぁ、いくらオレでも地球の裏側に居ちゃ行くに行けねぇんだよ。仕方無いだろ』


「ふざけんなよ、柘榴が重症だっつってんだろーが」


『阿片だろ?純度が高いものなら身体から抜けちまえば問題無い。まぁしばらく禁断症状やらフラッシュバックはあるだろうが、一時的なものだ。心配要らん』


「なんでそんな断言できるんだよ。もし万が一柘榴に何かあったら…」

      ・・
『平気だろ、今は独りじゃねーんだから。ボンゴレ坊主も隼人も居る。柘榴ちゃんだって分かってるはずだ、ただ認めたくないだけでな』



じゃあな、と強制的に切られた電話は機械音だけを耳に残した。重く息を吐いた獄寺に怪訝そうな表情をしたツナは、しかしどこかでそんな予感がしていた気がした



「…シャマル、来れないって?」


「はい、何でも今変な所に居るらしくて…。しばらくイタリアには戻らないそうです」


「そう…、他にドラッグに詳しい医者知ってる?」


「俺は全然…。シャマル以外の医者に診せた事が無いので。でも、シャマルは様子を見ても大丈夫じゃないか、と…」


「…そっか、良く分からないけどシャマルがそう言うなら大丈夫なのかな。リボーンから柘榴が起きたって連絡も無いし…」


「きゃあぁぁぁぁっ!!!!!」




耳をつんざくような甲高い悲鳴で、ツナは言葉を飲み込んだ


女声特有のソプラノトーン、あんな声を出す者はこの屋敷には1人しか居ない



「柘榴…!?」



リボーンは何をやっているのか、そんな事を疑問に思う前にツナと獄寺は駆け出していた


柘榴の部屋へと向かう途中、同様に悲鳴を聞き付けたらしい雲雀と合流した



「…何があったの、」


「まだ何も。…リボーンが居るはずなんだけど、何してんだか」


「十代目、やはりリボーンさんに任せたのは間違いだったのでは…?まだ柘榴を受け入れられていないようですし」


「僕も銀髪に同感だね、今回だけは。赤ん坊はいつまで経っても成長しないし、むしろ柘榴が危険だよ。赤ん坊が終始彼女の周りに居ると僕も近付けないし」


「…リボーンの我儘をいつまでも野放ししてやるわけにもいかないしね、そろそろ大人になってくれなきゃ」



バタン、と勢い良くドアを開け放つと、そこには、



「いやぁっ、放して、放してよっ!!」


「やめろ、おい落ち着け…!!」



ベッドの上でリボーンに押さえ付けられる柘榴は、四肢をバタバタと動かし暴れている


それを力ずくで取り押さえるリボーンは、珍しく狼狽えた様子で柘榴の両腕をベッドに縫い付けていた



「リボーン、一体何が…」


「オレが知るか。飛び起きたと思ったら、急に、」


「放して、あたしじゃないわ…!!」



柘榴が何を叫んでいるのか分からない。しかし夢見が悪かっただけで柘榴がこんなにも混乱するだろうか


火事場の馬鹿力とでも言うのか、リボーンの方が圧倒的に腕力はあるはずなのに明らかに柘榴の力の方が勝っていた



「柘榴、どうしたの。落ち着いて」



獄寺がリボーンに加勢する傍らで、雲雀が必死に柘榴を鎮めようとする。しかし柘榴は正気にならなかった



「あたし、じゃない…、あたしが殺したんじゃないわ…!!」





はっと息を飲んだのはリボーンだけではなく、目の前でカリオンが殺された時の光景がフラッシュバックしているのだろうと思われた


一時的なものだろうが、重度のショック症状。恐れていた事態に陥ってしまったのだ


目の前で人が殺される、という非現実的な出来事は深く柘榴の心と記憶に傷を付けたはずだ


その上、柘榴は自分のせいでカリオンが死んだと責められているのだろう。恐らく、血濡れたカリオンの死体に



「柘榴、大丈夫。君のせいじゃないよ」



血と殺人に慣れてしまった自分達に、その苦しみは分からない。初めて人を殺めた時、自分は一体何を思い何と言って贖罪したのだろう



「…隼人、医務室から安定剤持って来て。雲雀さんとリボーンはそのまま柘榴押さえてて」



例え正当防衛であったとしても、こちらに非は無かったとしても、それを死者に主張しても意味が無い


死んだ人間が自分を殺した人間を許すはずが無いし、許されたいわけでもない



その微妙で繊細な感情は、それを乗り越えた人間にしか分からない物だろう。実際、ツナはその心情を上手く言葉にできなかった










「十代目、お待たせしました…!!」



走り寄ってきた獄寺が柘榴の腕に精神安定剤を打つのを見ながら、ツナは革でできた拘束用の手枷を取り出した


柘榴に使った安定剤は非常に弱く、一時的にしか効かないだろう。不本意ながら、柘榴の四肢をベッドにくくりつけて自由を奪った


柘榴の白い肌には自分で付けてしまった引っ掻き傷が所々にある。これ以上柘榴の身体に負担を掛けない為にも、ツナはこうするしかなかった



「…隼人、もう1度シャマルに電話して指示を仰いで来てくれる?」



薬が効き始めたのか、柘榴はゆっくりと眠りに落ちていった



辛く険しい試練は、まだ始まったばかりだ




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あきゅろす。
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