ルチフェルの泪とサタンの唄声
02
「−−−っ…!?」
柘榴は自分が上げた声無き悲鳴によって覚醒した。肩でしなければならない程荒んだ呼吸、全身に感じる嫌な汗
見慣れた天井が目に入った事でここが自分の部屋である事に気付いた柘榴は、ゆっくりと体の力を抜いた
嫌な、夢を見た気がした。どんな夢だったかははっきり覚えていないが、長く苦しい夢だった気がした
寝起きだからだろうか、頭がぼうっとする。そんな息苦しさを払拭したくて何度か咳き込むと、不意に視界に影が射した
「…起きたのか。気分はどーだ?」
「リボーンさん…」
柘榴の顔色を伺うように覗き込んだリボーンは、先程よりもわずかにだが血色が戻った事に安堵した
言い方は悪いが、先程までの柘榴は死んでいるのではと疑う程に顔色が悪かったのだ
「…まだ寝てろ。シャマルが来るまで絶対安静だ」
身を起こそうとした柘榴の両肩を制し、再び枕に頭を沈めさせる
柘榴が反抗しなかったからだろうか。その手に込められ力は弱く、微かに優しさを感じた気がした
「どうして、シャマル先生を…?私なら、どこも…」
「ルナリアがてめーに打った阿片が厄介なんだよ。今おめーが生きてる事自体奇跡に近い。変な所で禁断症状が出ても困るからな、早々に手を打つ事にしたんだ。
クスリ漬けになったヤツなら多少の耐性はあるが、初めての人間にあれだけ高純度のドラッグはキツイはずだぞ。
獄寺がしばらく家事はする事になったから、おめーは部屋で大人しくしてろ」
頭がやけにはっきりしないのは、その阿片のせいだろうか。普段の柘榴なら大人しくしてろと言われて大人しくしていられるはずも無いのに、何故か今は言い返す気力も無かった
「…なんで、リボーンさんがここに?お仕事は、」
「てめーがおかしくなった時に誰も居ねーと困るだろーが。他に手が空いてるヤツが居なかったんだよ」
本当は、ツナに命じられて嫌々ここに1人残ったのだ。他の守護者達は各々の任務やら仕事やらをしに行ってしまった
リボーンとて仕事が無いわけではなかった。むしろ柘榴を救出する為に滞っていた仕事が幾つもあったし、早くそれらを片付けなければならなかったが
『じゃあ柘榴の面倒はしばらくリボーンに頼むよ。良いよね?』
『…あ゙?何言ってやがる、なんでオレがそんな事…』
『リボーンの仕事は俺らで分担して終わらせるから、よろしく』
『勝手に決めてんじゃねーよ。オレはやらねーからな』
『あれ、リボーンはそんな事もできないの?しょうがないなぁ、じゃあ隼人にでも…』
『ちょっと待て、今の一言は聞き捨てならねーぞ。このオレが小娘1人の子守りもできねーだと?』
『だってできないから嫌がるんだろ?なら無理しなくて良いよ、多分隼人の方が適任だし』
『ふざけんな、そのくらいオレでもできる』
『本当?ならリボーンで決まりだね』
売り言葉に買い言葉でまんまとツナの口車に乗せられてしまい、リボーンは柘榴の部屋に留まったのだ
すれ違いざまに肩を叩いて言われた、
『早く大人になれよ、リボーン』
というツナの一言がやけに気になって仕方が無い。ダメツナの分際で偉そうに、とリボーンはその真意が分からなくて小さく舌打ちをした
「…リボーンさん?」
「気にすんな。…シャマルとまだ連絡取れてねーんだ、まだしばらく寝てろ」
そう言ってリボーンは己の掌で柘榴の目元を覆い無理矢理寝かせようとする
が、しかし。柘榴は躊躇いがちにその手に触れるとそっと退かし再びリボーンを見つめた
「…さっきまで散々寝てたから、もう眠くないです」
「嘘吐け、目が眠そうだぞ」
「でも…」
「なら寝なくても良い。目だけでも閉じとけ」
やけにごねる柘榴を不審に思いながらも、リボーンは下がってしまった掛け布団を首元まで引き上げてやる
何を言っても無駄だと悟ったのか、柘榴は大人しく瞳を閉じた。しかし、
『…その面、二度と俺に見せんじゃねぇ!!』
何故だろう、最期に見た昶の顔が、頭に張り付いて剥がれない
考えないようにしようとすればする程、脳内に響くエコーが大きくなっていくような気さえした
「…っ、リボーンさ…」
「黙って寝てろ、ツナが心配するだろーが。
…心配しなくても、おめーが寝てもここに居てやる。だからさっさと寝ちまえ」
宥めるように髪を撫でられ、柘榴は素直に目を閉じる。理由は分からないが、今なら穏やかに眠れる気がした
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