ルチフェルの泪とサタンの唄声
01
人魚姫は愛する王子様の為に海の泡と消えました
彼女は幸せだったのでしょうか?世界で1番大切な人の為に死ぬ事ができて、彼の幸せを願う事ができて
なら、あたしも幸せになれるのでしょうか?
シアワセになる事を諦めたあたしでも、昶を忘れられないあたしでも、彼らを受け入れられないあたしでも
まだ、幸せになる資格はあるのでしょうか…?
ベッドに眠る柘榴の目尻から流れた一滴の涙を拭う事もできずに、その周りに座るツナ達は言葉を失い白い顔を見つめていた
一向に目を覚まさない柘榴をベッドに寝かせ、骸の能力[スキル]を使い彼らは柘榴の過去を“見て”いた
本来なら彼女の口から直接聞きたい所だったが、そんな悠長な事を言っている余裕は無かったのだ
いつ再び柘榴が自分に凶器を向けるか分からない状況で、下手な優しさは命取りになる。そう判断したツナが骸に命じて記憶を漁らせたのだ
勿論全てを見るには柘榴が苦しんだ期間は余りにも長く、骸が特に強く記憶に残っているものを選んで幻として投影していたのだが
こんなにも、柘榴と“弟”の絆が強かったなんて。こんなにも、柘榴が苦しんでいたなんて
誰も何も言えないまま、ただ時計だけが時を刻む
柘榴の目から零れ落ちた涙は1滴だけで、顔色は悪いが今は何事も無かったかのように良く寝ている
どのくらい時間が経ったのだろうか。最初に口を開いたのは骸だった
「…綱吉、気が済みましたか?」
「……もう、十分だよ。っていうか…、何だよ、これ……」
「…君が知りたいと言った柘榴の過去です。ほんの数ヶ月前まで、柘榴が“生きて”いた」
雲雀が初めて会った時、柘榴は雲雀を『死神』だと言った
彼女は何を思ってここで“生きて”いく事を選んだのだろう。今何を考えここに居るのだろう
自分は柘榴とは違う人生を歩んで来たはずなのに、何故か胸が締め付けられるように苦しかった
「…綱吉、どうするの?知っちゃったからには何もしないわけにはいかないでしょ」
腕を組んで壁にもたれる雲雀が静かに問う。どうすれば良いかなんて、その場に居る全員が分かっていた
しかし、敢えてそれを疑問として口に出すのは、その答えに自信が無いからだ
果たして柘榴はそれを望んでいるのだろうか。きっと、柘榴は今でも昶を愛しているはずだ
「…俺は、柘榴に幸せになって欲しい。普通に笑って、普通に楽しく自分の為に生きて欲しい。どうすれば柘榴が幸せになれるかなんて分からないけど…、でも、俺は、柘榴に笑ってて欲しいから」
柘榴を見つめたツナの瞳に迷いは無かった。ツナの意思はボンゴレの意思。即ち彼ら守護者の意思でもあるのだ
「柘榴には、この世界で幸せになってもらう。昶を忘れて、俺らの側で」
勿論、ツナの命令が無くとも彼らの思いは1つだった
柘榴の悲しむ姿なんて見たくない。柘榴を独りになんてしたくない。泣き顔なんてもっての他だ
「柘榴はもう、俺らの仲間だよ。…みんなだって、そう思ってるだろ?」
「確認するまでもないね、当然じゃないか。もっとも、綱吉に柘榴を譲るつもりは無いけど」
「僕も雲雀くんに同感です。言っておきますが、僕だって負けませんよ」
「俺も賛成なのな。柘榴が命一杯笑った所、見てみたいしな!!」
「流石十代目、仰る事が違いますね!!俺は勿論十代目のご意志に従います!!」
各々決意を述べる中、唯一それに参加しなかったリボーン。5人の責めるような視線に耐えきれなくなって、はあっと重い息を吐く
「…好きなようにすりゃいーだろーが。ツナの言う事は絶対だ、オレが反対した所でどーしよーもねぇ。
……ただし、覚えとけよ。女に腑抜けになって任務や仕事が疎かになったりしたら…」
「そんな事にはならないよ、俺らを誰だと思ってるの?リボーン」
強気に笑ったツナは、ようやく柘榴の額を撫でた雫を拭いそこに口付けた
「…ボンゴレ十代目沢田綱吉の名において、大鳳柘榴を正式にボンゴレファミリーに迎えます。これからもよろしくね、…柘榴」
眠る柘榴にその言葉が聞こえたかどうかは定かではないが、その瞬間確かな契約が交わされたのだ
“誓約書”よりも強固で明確で、揺らぎない関係線が
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