ルチフェルの泪とサタンの唄声
04
「それで、君は俗に言うトリップをしたって事だよね」
ツナが確認の為そう言うと、柘榴はそうみたいね、と無表情で返す
「これからどうしようか」
ツナが困ったように笑った。マフィアと関わるようになってから様々な体験をしてきたが、異世界から来たという少女を拾ったのは初めてだ
「取り敢えず警察にでも届けたら?」
「それは酷くない?仮にも俺らと同い年くらいの女の子を、知らない土地を放り出すなんて」
「じゃあここで養うの?どこからどう見ても一般人にしか見えないこの子を?」
「それもそうだよなぁ…」
再びツナは考え出し、沈黙が降りた。雲雀は元から自分の利益にならない事はしない主義なのでツナが考えをまとめるのを黙って待つ
「…ねぇ」
ツナが考えをまとめ口を開くより先に、柘榴が言った
「貴方達って偉いの?」
「は?」
どうしてこの子は予想外な事ばかりを言うのだろう。ツナと雲雀は今日何度目かの間抜けた声を発した
「まぁ…偉いとかそういうレベルじゃないけど、俺はボス…社長みたいなもので、雲雀さんは幹部だから」
「あら、若いのに凄いじゃない」
他人事な反応に、ツナは違和感を感じた。ここは普通の女なら喜ぶ所ではないのか
「じゃあそれなりの権力はあるのよね。
あたしをここに置いて」
事も無さ気にさらりと言った柘榴にしばし固まり、数秒後に顔を顰[シカ]めた
「できなくはないけど、それは無理だよ」
「どうして?」
言い辛そうなツナに遠慮無く質問をぶつける柘榴。ツナが助けを求めるように雲雀に視線を送ったが、我関せずと雲雀は無視する
「なんて言うか…、
…俺達はマフィアなんだ。だから、一般人の君を巻き込みたくない」
少しだけ躊躇って、でもはっきりと発せられたツナの言葉に、雲雀は席を立った
「雲雀さん?」
「車の用意してくる。ここに置く気は無いんでしょ」
今日はさっさと休もうと思っていたのにとんだ災難だ、と雲雀は心の中で悪態をつく
「………あたし、イタリア語解らないんだけど」
じっと雲雀を眺めていた柘榴は、雲雀がドアノブに手を掛けた所で背中に声を掛けた
「トリップなんて、普通の人は信じないでしょうね。頭がおかしいと思われて、きっと精神病院に連れ込まれるんだわ。
それかパスポートもビザも持たない日本人なんて不法入国者以外の何者でもないし、日本に強制送還されるかもしれないわね。
でもこの世界の日本には、あたしの帰る場所なんて無いのよ。そこら辺に放り出されても、貴方達以外にイタリアに居る日本人なんて少ないでしょうから、行き着く先は同じでしょうね」
嫌味とも取れる言葉を散々投げ掛けられて、雲雀は仕方無く後ろを振り向いた
「じゃあ君はどうしたいの」
呆れ顔で聞くと、さっきと同じようにここに置けと繰り返される
「綱吉の言った事聞いてなかったの?僕らはマフィアだよ」
「聞いてたわ。でもそれが何?他に行く当ても頼れる人も居ないのよ」
「………君、毒舌だって言われない?」
綺麗な表情を一切変える事無く即答する柘榴。漆黒の瞳は1度も揺れなかった
「良く言われるけど、あたしは正直なだけよ」
当然とばかりに言い放つ柘榴に、ツナが堪えきれなくなったのかブハッと吹いた
「……綱吉?」
お腹を抱えて1人笑い転[コ]けるツナを、柘榴も雲雀も不審な目で見ている
「ははっ、雲雀さん相手にそんな口利く人は居ないよ、柘榴」
ツナは目にうっすら涙まで浮かべて笑っている
「それは誉め言葉として受け取っていいのかしら」
真顔で言う柘榴もツナに負けず劣らず失礼だ、と雲雀は不機嫌になり、ツナは更に笑い出した
「うん、いいよ。俺達がマフィアで、そんな俺らと一緒に居て付きまとう危険を忘れないって言うなら。ここで働いて」
ツナの許可が降りた時の柘榴の笑顔を、ツナと雲雀は一緒忘れられないだろう
美しすぎる顔が更に輝かんばかりの、満面とは言えない、でもその分儚くて愛しい、柘榴の笑顔を
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