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くわえようとしたが遅かった。出来ることなら飲み込みたかった。弾けるようにして、顔に飛び散った白濁の温かさに暫し惚けてしまう。


「んっ…ぅ……」

不愉快でない顔射というのもおかしなものだ。
震えながら断続して精液を溢れさせる性器が愛しく、それを執拗に舐めとった。
淫蕩な熱に侵される。舌を離すと唾液と白濁の混じったものが糸を引いた。

すっかり夢中になっていた。頭がとろんとしてきたと思ったとき、会計が抱えていた会長の脚を下ろし、いきなり俺の両腋に手を差し込んできた。
「おいで」と小さく囁かれ、よく見れば会計は会長の腰を跨ぐような体勢に変わっている。
脈絡のない行動に意味がわからず、俺は誘導されるままにベッドに乗り上がる。

何ですかと声に出そうとしたが、唇の端にキスを落とされる。目をぱちくりとさせているうちに口付けられ、さらに混乱する。
腰を撫でる手。もがくようにしてその腕を掴んだ。


「ん、っなに、もう…なに…っ」
「何って、森谷くんもほぐさなきゃいけないんじゃないの? 会長の童貞奪っちゃうんでしょ?」
「あ…う……」

何だか奉仕するばかりで忘れていたが、たしかにそうである。最近は会長のストーカーばかりしていたため、セックスはご無沙汰である。
だからか、会計に腰を撫でられているだけでも敏感に反応する。股間のものも、触られてもいないのに熱く滾っている。

もじもじしていると、会計の背後で会長が半身を起こした。
口周りの唾液を拭う仕草を、少し赤らんだ顔が扇情的に見せていた。


「……それは本気なのか」
「本気どころか、俺はもうノリノリだけどー。それとも、ここまでさせておいて森谷くんを追い出す?」

俺がさせた訳じゃないだろうと言いたげな会長だったが、会計の肩越しから覗く俺へちらりと目をやる。
さっきまで結構ノリノリだった俺だが、だんだん申し訳なさに肩身が狭くなってきた。
もし俺だって、見も知らぬ誰かに「抱いてくれ」と言われ無理矢理フェラされたら、悪い気しか起きない。
ストーカー行為を謝りに来たはずなのに、謝るどころかさらに勝手な妄想で暴走して……、もし会長に俺の頭の中を見せたら絶対嫌われる。


「わかった。俺もするから、あまり苛めてやるな」
「へ?」

そう間抜けな声を発したのは俺である。
すると会長も、きょとんとした顔を返した。


「俺だけというのも不公平だろう」
「え、でっでも、会長はネコだから攻めるなんてできないんじゃ、」
「したことはないが、できない訳じゃない。不慣れな俺では不満か?」

不満であるはずがないじゃないか……っ!!
しかし、こんな夢のようなことがあっていいのか。まるで俺の妄想のようだ。

黙って俺をじっと見つめていた会計が、不機嫌そうに後ろを振り返った。


「ねえ、俺を挟んで話すのやめてくんなーい? てゆーかぁ……何で森谷くんは会長の部屋にいたの?」
「俺が部屋の前で倒れたのを、ここまで運んでくれたんだ」
「じゃあ、森谷くんは会長の部屋の前にいたの?何で?」
「それは……俺、会長の親衛隊の隊長で、ちょっと話したいことがあって」

ぎくりとして、あまり関連性のない事柄を口走ると、会長が意外そうに言う。


「隊長だったのか」
「ご存知ないですよね」

仕方ないですから、と俺は呟く。
会長は、テレビ画面の中のアイドルのようなものだ。アイドルが、一人のファンを知っていることはない。たとえ、俺が会長の全てを知り尽くしていたとしても。
わかっているのに、どこか悲しいのは諦めが悪いせいだ。
会長も実は俺が好きだったなんて、あまりにおこがましい理想なのだ。

そう思って俺は会長に見えないのをいいことに、落胆の表情を浮かべた。それを会計がつまらなそうに見下ろしていた。




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あきゅろす。
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