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「あのさー、タチとかネコとか相性ばっかり気にして、体の恋愛から抜け出せてないのは会長の方じゃないの」

そのときの会計の声は至極真面目なもので、何も言えず閉口してしまう。


「嫌われるのを怖がってたら、恋愛なんかできる訳ないじゃん」

「でしょ?」と促すように言われて会長をおずおずと見据えると、ばちりと視線があう。会長が虚をつかれたように押し黙った。
その迷いがあるような表情を、どういう顔をして見ればいいかわからない。そのとき、頬を濡らしていた涙の筋を会計の指が掬う。


「昔の会長を好きだっていう人がいたんなら、今の会長を好きっていってくれる人もいるよ」

また目が熱くなって、少し顎を引いて俯いた。
会計が、そんな俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「失恋を癒すには新しい恋愛がいいらしいからねぇ。まあ、森谷くんにも言えることだけど?」
「おっ、俺は会長一筋ですから!」
「ありゃ、フラれちゃったね」

声を転がすように笑う会計をよそに会長に声をかけようとして、目を丸くした。
会長はじわじわと顔も首も耳も真っ赤に染め、焦ったように口元を覆う。まるで恋を覚えたばかりの恥じらう子供のようだ。
一瞬どういうことなのか分からないでいたが、とりあえず俺は顔を真っ赤にした会長があまりに可愛くて、目に焼きつけようというほど見つめてしまった。
それが言葉を待つ真剣な眼差しに見えてしまったようで、会長はさらに緊張した様子で言った。


「こ、こんな俺で…本当にいいんだろうか」

遠慮がちな言葉に、俺の心はぶわっと驚喜で覆い尽くされた。
会長に負けないくらい紅潮しながら、俺は当然こう答えた。


「いい、いいんです! 俺はどんな会長でも、……むしろ素顔の会長の方がずっとずっと好きです………!」

感極まって叫ぶ。
すると俺の手の上に、そっと優しく触れるようにして会長の掌が重なった。
窺うような視線を向けられるとたちまち高揚が頂点に達し、顔から火が噴き出しそうだった。


「森谷。俺と……付き合ってくれるか?」
「っもちろんです!!!」

迷うことなく返事をすれば、会長は少し驚いたようだったがすぐに柔らかい微笑みを浮かべた。恍惚として見蕩れてしまう。

そんな、ついさっきまでフラれるための覚悟までしていたのに。こんな一生分の幸運を一度に消化してしまったような展開でいいんだろうか。
俺は溢れるほどの幸福感に奮い立って、口をぱくぱくさせた。
蚊帳の外から見つめていた会計はにたにた笑っていたが、俺はもはや会長しか視界に入っていなかった。
今度こそ本当に夢じゃないだろうか。だったら早く決定的な何かをしないと、と俺はろくに働かない思考回路で考えた。


「か、かかかかかか会長……」
「ん?」
「き、ききききききキスして、いい…ですか?」
「……じゃあ、俺からしても、いいか?」
「!!」

俯きがちにしていた顔をばっと上げた。会長に握られた手がぎこちなく固まって、心臓の鼓動が耳にまで響いてくる。




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