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「俺と…付き合いたいということか?」
「あわよくば……、でもバリネコなんですよね?」

俺が会長に突っ込むのは絵的にまずい気がするし、粗末な俺の一物では会長を満足させられる自信はない。
今日ほど、この仔鹿のような細身を恨み、屈強なる肉体を望んだ日はないだろう。マッチョになりたいと願う日がくるとは思わなんだ。

すると会長は自嘲するように言う。


「俺はずっと、森谷みたいな子が欲しかったよ」
「え…」
「体で繋がるだけじゃなくて、恋愛を……してみたかったんだ」

たどたどしく言う表情は夢を語って照れている子供のようで、きゅうんと胸が締め付けられる。


「―――あの人が好きだった。でもこんなに体が大きくなってしまっては、もう昔のように抱いてもらえない」
「会長……」

残酷なことだ。大人への成長は誰にも止められない。
時が立つにつれ、相手への愛は育ち、相手からの愛は枯れていく。
こんな悲しいことがあるだろうか。


「好きと言ってくれるのはいつも俺に抱かれたがる子ばかりだから、こんな体だと言える訳がない。本当の自分を隠して付き合うのはいけない気がしたんだ。それを知られて嫌われるのも、怖かった」
「だから童貞なんですね……」

しみじみと言った俺の言葉に、だんまりを決め込んでいた会計が吹き出した。
会長も、恥ずかしいのか諦めているのか微妙な笑いを浮かべていた。

そして、何となくそんな会長の口調から雰囲気で伝わってきた。
フラれる。
また胸がぎゅうぎゅう痛いほど締め付けられて、激しい絶望感に襲われた。

いやだ。
そんなあやふやな気持ちで、俺を突き放さないでほしい。俺の気持ちを軽く扱わないでほしい。
簡単に片付けられる恋愛なら、最初からこんなに涙がでることなんか。


「そ…それでも……っ」

口からついてでた言葉のその先を必死に考えた。
気分はしつこく商品を売り込むセールスマンだ。でも会長に好いてもらえるような部分が思い当たらない。
会長のことなら何でも知っているはずなのに。


「つ、つい最近はですね、NTRといって恋人を他人に寝取られる状況に興奮するプレイが……っ、俺全然そういうのもイケるので、だから会長が他の人とセックスしてても気にしませんし、」
「森谷」
「じゃあ、セフレ……いや、タチ体験っていうか練習用のダッチワイフみたいに扱ってくれても……っ」
「いいんだ」

氷を当てられたような冷たい感覚が背筋に広がる。忙しない口が、漸くして声を潜めた。
肩を掴んでいた会長の手が、そっと離れていく。


「好きと言ってくれて、ありがとう」
「…っ……」

何かが自分の中でがらがらと音を立てて落ちていく気がした。
嗚咽が込み上げ、みっともなく泣いてしまいそうなときだった。会長から引き離すようにして、会計の腕に抱き込まれた。


「じゃあ、俺が付き合っちゃうよ」

驚きに目を見張り、後ろを振り返ろうとしたとき、我慢していた涙が一筋頬を伝った。
怪訝そうに会長が、会計を見遣る。しかし変だった。俺の好都合な見解ではないだろうか。会長は動揺しているように見えたのだ。


「会長さ、案外森谷くんのこと、いいなと思ってるんじゃないの?」

すると表情が固まる会長に、呆気にとられた俺は一拍おいてから体中の血が上った。
俺の揚げ足を取って、「寝取っちゃっていいの?」と煽るように笑うのだから、会計もたちが悪い。




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あきゅろす。
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