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「でもっ、言わなくちゃいけないことがあって…!」

わざとじゃないのに、おぼつかない口調になってしまう。
さっきまでノリノリでフェラしていたのに、これだとしおらしく演技しているみたいじゃないか。俺らしくない。
臍をかむような気持ちになりながら、また震える口を開く。


「俺…っ、ずっと会長のことストーカーしてたんです……!!」
「は?」

会長がさらに驚いたような顔をする。
その表情をきっかけに、ぶわっと感情が波のように押し寄せ、壊れた蛇口のように口から言葉が突いてでた。


「毎日待ち伏せして隠し撮りとか、会長が口つけた紙コップを持ち帰ったりとか、それを日常的に使ってるとか、健康診断盗み見たりとか、挙句に会長が体育してる間にネクタイ盗んじゃったりとか……っ! 本当にすみませんでした!!」
「え…あ…、ああ」

とりあえず思い出せるだけのストーカー行為を一息に供述して小さく頭を下げる。しかし会長と会計はあまり驚くことなく「なるほどね」と納得したように言う。


「もしかすると、生徒会室に盗撮と盗聴を仕掛けたのも森谷くん?」
「きっと、そうです……」
「なあんだ。そうだったんだ。てっきり過保護な理事長が仕掛けたのかと思ってたんだけど」
「…だから、あの人は完全に俺を相手にしていないと言っただろ。……森谷。」

そう呼びかけられ、顔を上げると少し眉を顰められる。怒ってる顔だと感じ、目の前が焦点をなくしたように歪んだ。
軽蔑される。わかってたことだ。それを覚悟の上でここへやってきたのに、心臓がぐっと痛くなる。


「ごめんなさい…、やっぱり俺、帰ります…」

消え入るような声で言う。チャンスだ夢のようだと馬鹿な真似しないで、早く言えばよかった。
なのに、俺はまた卑怯で臆病だ。会長から拒絶の言葉を聞きたくないから、先に逃げようとしている。
目を逸らして会長の上から退こうと身じろぐと、俺の腰を会長が引き止めた。
びくりと肩が震えた。
おずおず顔を上げて、見つめてほしいと何度も願ってきた瞳を見据えた。


「ストーカーはともかく、盗みをしてはいけない。それをわかっているから謝ってるんだな」
「っ、……はい」
「なら、いい。謝ってくれたことに価値があるんだ。気にしなくてもいい」

そう言って、会長が頭を撫でてくれる。そのさりげない所作だけで、押し出されるように涙が溢れてきた。
惜しい気がしたが、その腕をやんわりと掴んだ。


「何で…っ、何で怒ってくれないんですか……!」
「怒るというのは罪を認めさせるためのものだ。謝った奴に怒っても意味がない」

ぐうの音も出ない正論を一息に言われて、また視線をさ迷わせた。

これ以上、好きにさせないでほしい。
もっと変なことを言ってしまいそうになる。


「でも俺、これでも性格悪いんですよ……っ? つけ込んじゃいますよ?」
「つけ込まれてるとは気付かなかったな」

首を傾げて、「それは困った」と冗談めかして微笑む会長にもう色んなところが暴発してしまいそうだ。
頬に添えられた手に、手を重ねる。あんなに遠いと思っていた手がこんなに近い。温かくて涙が出そう。


「本当に…っ好きです……大好きなんです!」

もう会長とセックスできるなんて必要ない。
これを言えただけで満足だ。そう思った。




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あきゅろす。
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