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「真央、これからどこ行くの…?」

「ああ、コンビニと本屋にでもと思ってな」

「一緒に、行きたい」

「駄目だ。どうせ、お前ずっとゲームしてたんだろ?早く帰って、ぬいぐるみは幸にでも渡せよ。俺はいらねぇから」

「…………わかった」


俺には素直だ。未来はしょんぼりしながら頷くと、俺が差し出したぬいぐるみのうち、二つだけを手に取って、うさぎのぬいぐるみを残していく。



「それは……、あげる」

「だから、いらねぇって、」

「あげたい」


腕くらいの高さのぬいぐるみだ。
こんなの男が持ってうろつくのは、何だか気がひける。

だが、ぬいぐるみを押し付けて合いながら顔を近付けられて、首を横に振るのもいけない気がした。
俺達の手に挟まれたうさぎは、むぎゅうと潰れて無惨な形になっている。



「あー、分かった分かった。じゃあ、貰ってやるから、ちゃんと周りのぬいぐるみは拾って帰れよ」


そう妥協すると、未来は口を綻ばせて足元のぬいぐるみを拾っていく。
ニット帽で顔の半分は隠れているが、にこにこと笑っているのは雰囲気で分かる。

そんなこんなで、俺の手にうさぎのぬいぐるみを残したまま、未来は去っていった。



そして、俺はまた片手で雑誌を歩き読みして、うさぎの両耳を掴みながら娯楽棟へと足を運んだのだった。






娯楽棟三階の本屋に立ち寄ると、そこにいたのは―――、



「理央?」

「……真央、どうしたの?」


いつものびしっとした制服ではなく、ラフな私服を纏った理央は、俺の方を向いて少し驚いている。

俺もこんな朝から理央がいるとは思わなくて、気まずさに首元を撫でた。



「何かあるかと思って来たんだけどよ……」

「俺もだよ。今日は珍しく仕事が片付いてるから、暇潰しになるかと思って。朝から本屋に来る生徒も少ないし」


言われてみれば、本屋にいる生徒の数は少ないようだ。
理央がこんなとこにいたら、食堂のときみたいに生徒が押し掛けて大変なことになるのは、目に見えてるからな。

理央と並んで本棚を見上げているが、惹かれるタイトルは何一つない。
暇を潰すとは言っていたが、理央も本に手を伸ばす気配はない。

暫しの沈黙が続いたとき、


「あの、真央……、」


理央が何か言おうと口を開いたとき、それはある人物に遮られた。



「蓮宮様……っ!」


理央の向こう側に目を遣ると、そこには背の小さい生徒がいて、呼びかけられた理央は首を傾げる。
生徒は眼鏡をかけていて、読書が趣味というような風貌をしていてる。緊張で力んだ様子で、顔を赤らめている。



「何か?」


あー、理央の声が少し刺刺しい。
この生徒も所詮はああいう奴らと同じか、と気付き、邪魔しないようにと一歩、理央から退いた。

生徒が拳を握って叫ぶ。



「す…、すすすすす好きですっ!この本屋に、たまに来られるのを、ぼ、僕、ずっと見ていて………っ!」

「悪いけど、」


理央が間も入れずに、冷たい声で口を挟んだが、何を思ったのか俺を一度振り向く。

そして、生徒の方には目もくれず、俺を見下ろしたまま、ふっと笑って言った。



「………好きな人がいるから」


氷が溶けたように、その声は優しい響きを帯ていた。

ショックを受けた生徒は視線をゆっくり下へ落とし、顔を掌で覆うと、その場から立ち去っていった。




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あきゅろす。
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