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下へ降り、二階へやってきた。

だが、ここにあるものと言えば大浴場と購買部ぐらいで、大した暇潰しにはなりそうもない。
とりあえず、目当てのものがあるかどうかは定かでないが、購買部へ足を運ぶ。

ふと、すれ違った生徒。
風呂上がりのようで、きっと大浴場に朝風呂に来ていたのであろう。顔が火照っている。
変装を取らなければいけなくなるから、大浴場は無理だな。一度は、ゆっくり一人で大きな湯船につかってみたいものだ。


購買部といっても、日本の煙草屋のような感じじゃなく、きちんとした店だ。軽食や雑誌が一通り売られている。
中に入ると、他にも生徒がちらほらいた。
迷うことなく、雑誌がある棚を見渡す。

そして、目当てのものを見付けると、手早く会計を済ませた。
レジにいるのは、食堂で雇われているのと同じ、子鬼。
レジカウンターに背が届かないため、足元に台を持ってきているようだ。まるで、働き蟻かロボットのように作業をこなす。

店を出て歩きながら、買った雑誌を開く。


これは、魔界の政治状況を新聞のように記載している雑誌だ。魔王の仕事から離れていて、魔界の情勢が分からない俺にとって、打って付けの楽しみだ。
月に一度くらい発行されているようで、この雑誌の存在を知ってから欠かさず読んでいるが、特に、問題は起きていないようだ。



目は雑誌に向けたまま、足を娯楽棟へと進ませる。

すると、途中で感じた魔力に、顔を上げた。



「…………げ。」


思わず足を止め、透かさず来た道を戻ろうと体を反転させたが、遅かった。




「…真央……?」


とても小さな声だったが、俺の耳に届いてしまった。
関わると面倒な奴というと、こいつは遠野といい勝負だ。

ゆっくり振り返ると、その瞬間に覆うように抱き締められた。



「おはよ、……真央」

「あー……」


何だか酷く疲労感を感じて、曖昧な返事を返した。
抱きついてきた未来を引きはがそうとすると、未来の周りに散らばっている、ぬいぐるみの数に暫し驚いた。



「お前、何だよ。このぬいぐるみ……、八個はあるぞ?」

「UFOキャッチャーで取った…」

「何だそれ?」

「知らない…?ゲーム」


そう言って首を傾げ、尚も俺を抱き締めたままでいる未来は、床のぬいぐるみを拾おうとしない。
そんな俺達に、行き交う生徒は不思議そうな目線を向けてくる。

ゲームと言えば、確かに娯楽棟の最上階には、娯楽という名前はこれが原因なのか、ゲームセンターのようなコーナーがあったはずだ。
UFOキャッチャーというゲームで、こんな量を取ったというのか。というか、お前、こんな朝っぱらからゲームかよ。

すると、未来はさっと屈むと、三つほどぬいぐるみを掴んで拾い、俺に押し付けてきた。



「真央、あげる…」

「は?いらねぇよ。何で、こんなもん……」

「似合う…、可愛い」


もはや、未来が何を言っているのか理解できないが、とりあえず、ぬいぐるみを受け取った。

ピンク色の兎を模したぬいぐるみは、もふもふとした感触で、雑誌を脇に挟みながら、何となく長い耳を引っ張ってみる。
他の二つは、クマとカエルに見えなくもない。





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