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「犬の姿で、誰かのとこに持ってけ。こいつは、そうやって寮内を転々としてるんだよ」
「じゃあ、御蔵のところにでも」

即答する俺。
ここは頼れる教師として、御蔵に犠牲になってもらおう。
八重瀬は駄々をこねていたが、渋々といったように「まあ、御蔵先生ならいいかな」と了解した。とりあえず八重瀬は、好みの男なら誰でもいいようだ。

そして今すぐに持っていくことにして、また犬に化けた八重瀬の小さく可愛らしい容姿を見て、げっそりとした気持ちが少し和らいだ。
しかし、これが実は変態な思考を持った男だと思うと、抱き上げるのも少し躊躇ってしまいのだった。




「犬か」

冒頭の俺と同じような反応を返してくる御蔵。
教師が住んでいる寮までやってきた俺は、犬を預かってくれと未来と同じ手口で差し出した。
すると御蔵は媚びを売る犬を見て、満更でもない様子で犬を受け取った。

きっと可愛いと思って騙されているのだろうと、内心御蔵を憐れに思った。
これが下心のある体臭フェチ男だとも知らずに……。


そして犬を渡し、帰ろうと廊下を引き返している途中、すぐに御蔵の部屋の方から驚いたように叫ぶ声が聞こえた。
やはり騙してしまった罪悪感もあったが、まあ御蔵なら大丈夫だろうと一瞬止めた足を再び踏み出した。



後日、未来と幸にこの話をした。
幸は「だから捨ててって言ったのに」と怒り、叱られた未来はうな垂れ、傍で聞いていた遠野は「だから捨てろって言っただろ」と重ねるように言い、縞は一人で苦笑を零していた。

いつもと同じに思われた日。
だが一つ、授業に訪れた御蔵の目が、夜更かしをしていたように眠そうだったのだ。
何だか、げっそりしている表情が昨夜の俺のように思えたのは、俺の思い過ごしであればいいのだが………。




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