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チラ裏の路地









夜道の路頭を歩む人影。
長いマフラーを首にとぐろを巻かせ、覆われた唇からは真っ白な吐息が外気に消えてゆく。コートのポケットに突っ込まれた手は手袋をはめていない。

かかとを地面にさすりつけるように歩くのは、きっと猫背にしているせいだろう。


暗がりにひそむ電灯は青白く、ぽつりぽつりと規則正しく並ぶ。光と影の境目は妙に黒くて背中がひんやりともすした。
ただそれがどんなに雰囲気がある道であろうと恐れることはない。


「すっかり遅くなっちゃった…」


口から滑り落ちたのは嘆きだった。
帰宅が遅くなることも伝えてあるとはいえど矢張り時間は気にするべきだった、と同好会ならぬ部活動にため息がでる。

部長の好意により妖怪話を延々と下校時間からたった今まで探索に出かけていたのだ。

それよりなにより苦痛なのは人間の立場で部員に知られないよう妖怪退治をこなす、ということ。
しかも妖怪退治と名ばかりで成仏はしていないのだから本当にその場しのぎ。

かと言ってリクオは足を急がせることはない。否、精神肉体ともに疲労が達しているため体に鞭を打つことを遠慮しているのだ。
その弱った躰には少々辛い時期である。





コンクリートという鉄はどうしてこうも冷たいのか。
スニーカーの靴下は一枚履き。
歩く行為の運動体感温度に対し、熱を逃がしやすい靴は足裏だけを冷やしていく。

一式を用意してくれる家信の冷え性知らずの彼女には分からないことだろう。むしろ彼女には冷えが必要なのだ、暖をとる必要がないのだから幾ら寒いことを伝えようとしても配慮できないことは致し方ない。
自分で暖は確保しなければならないのを改めて認識する。靴下は二枚がいいと、一人ごちる。

凍てつく風を避けるように首をマフラーに埋めたのなら、かさつく唇が繊維をからめて引っかけた。リップクリームを持ち歩く習性はあるはず訳がなく些細な痛みに眉間に皺をよせた。



「なんだ、寒いのか」


内部からの呼びかけに肩が跳ねあがる。周囲に人の気配は皆無。
もう一人の自分が声をかけてきたのだ。
心臓を整える間にも仕掛けた張本人は腹を抱え大笑い。落ち着きを取り戻した一変、リクオは憎ましい相手に目つきは変わる。


「、妖怪の君と違って、寒さは分かりますからね」
「…は…、とんだお門違いだな、心配した俺が悪いのか」


なんですと。

君が心配したのかと復唱すれば今度は内部のリクオが肩を跳ねさせる。
そんな彼の様子に大笑いではなくとも口角をあげて微笑んだ。


「…帰ったらすぐ風呂に入るから」
「、ふ…勝手にしろ」
「そしたらお酒も飲んだら温まるかなぁ」
「酔いが早くなるぜ」
「君も飲んでくれるなら大丈夫」




ね、と同意を求めればそつもなく短い返事を返すのみにその場は終えた。
胸と頬の体温があがるのを心地よく感じる。

薄暗に青白く照らす街灯がぽつりぽつりと路地を照らす億劫な帰路。
今宵だけでも足軽と歩む姿を拝めるのは、ただこの二人だけだった。











220216


あきゅろす。
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