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紋白蝶






ひらりひらり。

モンシロチョウが目の前を飛んでゆく。ナルトとサイはそれを目で追っていたがやがてそれは止まる。次々とやってくる蝶たちに目線を一羽一羽追うことがきりのないことと諦めたからだ。ゆっくり呼吸を吐き出すとまばたきを数回、目の前の大空をみる。木の葉の丘にある菜の花畑にふたりは寝そべっていた。男二人ではむさ苦しいと濁りをこぼしていたナルトでも、腰を落ち着けたのならばそれはそれは静かなものだった。ここに着いてから数分といえば目の前に広がる黄色い感動を目いっぱいに受けたナルトは声と表情で現し、それにサイは満足気に菜の花の上へと腰を落ちつかせて、すぐ横へと寝そべったナルトがいたということは当たり前の出来事である。あたたかい木漏れ日、否、菜の花の影に身を隠して午後のほがらかな時間を全身全霊で浴びている。まさに休暇と呼べるものだ。

「なんでお前ってばオレをここに呼び出したんだってば?」
「…デートっていう言葉、知ってる?」

寝そべったナルトの体勢は変わらず問いを投げかける。にこにこと返ってきたモノはどこかで耳に残したもので、背中に汗を感じながら顔色を伺うと残念そうに八の時へ曲げる眉毛のサイに見かねたナルトは百八十度、背を向けてしまった。

「あ、そうゆうことをするんだ」
「いゃぁ…うん……うん、ごめんってば…」

頬が凍ったまま返事をする。もちろん声色も凍っている。そんな様子のナルトを咎めるわけでもなく、いつものように笑みを浮かべて空を見上げた。瞼を細めていなければ目が焼けるくらいに青々しい。そうする必要がないのは周りの菜の花たちが日陰を作ってくれているから。背の高い菜の花の下は地面が幾分にも冷えていて心地よい。任務任務と明け暮れていたふたりにはご無沙汰の休日は唯一のデートの日。このような時間を作ってくれるのはいつもサイで、ゆっくりとした時間を共有できるのも今やサイのお陰だ。先ほどのようなやり取りもまた致し方ないことである。
そっぽを向いたは良いが相手が気になるところ。ナルトはそっと目線をサイにくれてやる。彼はようようと天を仰いでいた。その姿、風になびかれる髪の毛や気を許している風貌、なんてそんなことよりも増して黒い目を細ませて微笑む横顔に美しいと思ってしまった。
いけないものを観てしまったかのように困惑と戸惑いを胸に抱きあたふたとパニックを起こすがそれを知ってか知らずか胸中の当人はただ微笑を唇に乗せるだけである。なぜだかそれが悔しかった。自分もそんな目で見られていることがあるのだろうか。十分に自分は綺麗ではないことは分かっている。違う見方でいい、この人に己を見てと欲っした。そんな思考を抱いたナルトは顔を横に向かせて唇を尖らせて黙る。ある訳がないと。空を見上げていたサイは眼だけを流し再びおし黙った恋人を見る。ふ、と吐息を漏らし笑った。

「な、ななんで笑うんだよ」
「…なんでも」

少し身を引くだけで、生い茂る菜の花の中に体を投じているために互いが遠くに感じる。間に挟まれている薄いヴェールを果たすこの草がにくい。一本一本と指先でかき分けてみる。向こうにはハッキリと金色の髪の毛がキラキラと光り、その中心には大きく開かれた青色の瞳。薄く笑みを纏ったまま上半身を乗りだし頬をなでた。大きく開かれた瞳は更に大きく、触れている頬は熱を帯びる。風がなびく。ナルトの金の睫毛が揺れるとき、サイは淡い桃色の唇にキスをした。触るだけの柔らかい人肌は弾力をもって離れてゆく。ふにふにした見た目のそれは同様で、それ以上に愛おしいものを胸に抱いた。薄皮の膜が我々の肉体をつつみ神経が五感を教えてくれる。神経が全てなのか。ならば神経だけが残りこの薄皮が剥がれ落ちれば溶け合えるのだろうか。溶けて液体になってドロドロと流れてゆきたく思えた。そんな個体にもなれない中途半端な生き物は蒸発すればいいのだ。だが、そんなものはナルトとしての存在価値が殺がれてしまう。ナルトではないものになってしまう。ナルトの笑顔、表情、声色までもがコロコロ変わっていくよい意味での子供らしい彼。そんな暖かい彼とは一緒に居られなくなってしまうのだ、そう思う。胸が苦しかった。モンシロチョウが目の前に止まる。目の端にそれを留めながらこめかみに口許を寄せてサイは言った。どこにも行くな、と。














21.0413


あきゅろす。
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