冗談に聞こえません(ノル×亜貴/パニパレ)




 風呂上がり、バスタオル一枚で挑んだ体重計の針は想像より遥か右を指していた。

「うわ……痩せなきゃ」
「そうですね、以前より少し……」
「ノル!?」

 思わず漏らした独り言に返事が返ってきて亜貴は腰を抜かす。振り返ると、脱衣所の真ん中に青い球体が浮かんでいた。

「な、なんで、ていうかなんで私の体重……」
「夕食ができたから呼びに来たというのに何という言い草」
「今行くすぐ行く着替えて行くから」

 突然現れた同居人(?)を無理矢理押し返す。

「はいはいわかりました。ああ、それと最近さすがに太……」
「キャー言わないで!」
「肉付きが……」
「いやー!!」

 現実を直視したくない年頃の女の子らしく、亜貴は耳を塞いで叫ぶ。そして、言ってはいけない言葉を口にしてしまう。

「だ、大体、太ったのはノルがご飯作り出したからなんだからね! 私を太らせて食べるつもりかと思うよ」

 同居してすぐはノルの構造が不思議で仕方なかった。いや、今も不思議なんだけど。一緒に暮らしてから暫く経つが、ノルの口を見たことはない。実は人一人が入る、牙の生えた大きなブラックホールみたいな口があったとしてもおかしくない。
 けれど、亜貴の放った言葉にノルの顔(?)に影が差し、声が一際低くなる。

「へぇ……私が作る料理を、そういう風に思うのですね」
「違うの、そうじゃなくて……待って!」

 尋常ではない雰囲気に、亜貴は制止を叫ぶのだが、それに応じるノルではない。球体が人の形へと変わり、片眼鏡の銀髪の青年へと変貌する。青年が、亜貴の顎をくっと掴んで上を向かせ、顔を極限まで近づける。

「お望み通り食べてあげますよ」

 近すぎる距離に亜貴は思わずギュッと目を閉じ、視界は暗転する。

 けれど、顔にも体にも何も触れる感覚はなく、そろりと瞼を上げると、目の前には何事もなかったかのように青い球体が浮かんでいた。

「何もしませんよ。早く来て下さいね」
「ノル〜〜」

 顔を真っ赤にして亜貴は不平を叫ぶのだが、時既に遅し。ノルは奥の部屋へと引っ込んでしまった。

「はぁ……」

 ずり落ちかけているバスタオルを胸元で引っ張り上げながら、赤いままの顔で溜息を吐く。本当に心臓に悪い。こんな生活が続くようなら体がもたない。でも、ちょっと、悪くはないと思っている自分も居て……。そんなことを考えている間に、ノルの出て行った扉が大きく開けられて、胸が跳ねる。

「亜貴、あなたが食べないのなら私が……」
「食べるから!」

 大食い美少女に向かってハッキリと宣言する。考えていたらせっかくノルが作ってくれた食事が無くなってしまう。いつもこんな感じで、亜貴の思考は遮られてしまうのだ。




(10/12/18)

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あきゅろす。
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