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ガチャ、
「ルフィ、入るぞ?」
ノックもなし、名乗りもなしに返事無用で入ってくるのはエースだ。
毎度の事なので特に気にしない。
「よぉルフィ!今日はいい天気だな!」
「ああ、そーだなエース」
「絶好の冒険日和だ!どうだルフィ、久々に一緒に冒険してみねぇか?」
エースはおれがこんな風になっても、前と同じ様に接してくる。
おれにはそれが少し嬉しくて、ひどく辛い。
どんなにしたって、エースの中のルフィは帰ってくるはずもないんだから。
「…いや、おれはいいや。わりぃなエース」
「…そっか、じゃあ仕方ないな。また今度行こうな!」
「……ああ」
ニコニコと笑顔を崩すことなく、エースはいつもの様に背中に背負ったリュックから食べ物を取り出す。
次々と出される料理は通常の人の食べるような量ではなく、おれが昔食べていたくらいの量がある。
何度残しても、エースは毎回この量を持ってきた。
「昨日のメシは全部食ったか?」
「……いや、あんまりハラ減ってなくて」
「そーか。じゃあおれが食ってもいいか?ハラ減って死にそうなんだ!」
「おう、いーぞ」
この会話も毎回同じだ。
おれには新しいメシを与え、冷たく固くなったメシを旨い旨いと食う。
エースの食いっぷりは凄まじく、おれがパンとスープ、そして少しばかりのベーコンを食べ終わる頃にはエースも全て片付けている。
いつもならばここでさよならのはずだが、今日は少し違った。
「……なぁ、ルフィ」
「なんだ?」
「…………」
エースは躊躇うように視線をずらし、言葉を切って俯いた。
何だと問いても口を開閉するばかりで、その口は言葉を紡がない。
何分もかけ、漸くエースは話し出した。
「………オヤジが、明日ここを発つと」
「…そーか」
いずれこの日が来ることは分かっていた。
むしろ、1年もこんな何もない島に留まっていたのが不思議なくらいだった。
「じゃあエースともまたお別れだな。気ィ付けろよ」
「………」
エースはまた俯き、口を閉ざしてしまった。
エースがおれのことを心配していることは分かっている。
しかしだからと言って、おれのためにエースの冒険を遮るような事はあってはならないし、おれもそんなことを望んではいない。
おれのことは心配するな、とは言えた義理ではないが、本当に気にしないで欲しかった。
「…ルフィ」
躊躇いがちに、しかし今度はしっかりとおれの目をみて名前を呼んだ。
「一緒に来ないか?」
「………わりぃ」
船に誘われるのは、エースが初めてではなかった。
海に出れば元のおれに戻るさと、みんながこぞっておれの手を引いた。
しかしどうしても行く気になれず、何度となく誘いを断った。
今度も行く気になれず、そろそろ別れを切りだそうと視線を少しずらした瞬間、腹に重い拳が入った。
(拳一つかわせないなんて、1年も怠けてたツケだな)
久々に味わう感覚に、ゆっくりと意識を飛ばした。
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