7
ヒュルヒュルと肌をすり抜けて走っていく風が心地いい。
メシを断って、実は少し後悔していた。
久々に少し腹が減っている。
腹が減るなんて感覚、とっくの昔に消えてしまったと思っていたが。
今さら「やっぱり食いたい」なんて言うのは悔しかったので、しばらく我慢することにした。
「腹減ってねェなら、ちぃと付き合え」
おれを掴んだ手をそのままに、有無を言わせず腰を上げた。
どこに行くのかと思えば先程まで居た寝室だ。
「おいおっさん!おれはそこに用はねぇ。エースん所に行かなきゃならねぇんだ、降ろしてくれ」
しっかりと胴を掴んでいる手をぺしぺしと軽く叩く。
そろそろ本当に船から降りなければ、陸から大分遠くまで来てしまっていた。
「おめェに用はなかろうが、おれにァあんだよ。それとなハナッタレ、例えてめェの兄貴だろうが、おれの前で他の男の名を出すんじゃねェ」
掴まれた手の中からでは男の表情はうかがえなかったが、その声色と強められた握力から機嫌が良くないであろうことは分かった。
勝手に攫って勝手に機嫌を悪くして、随分と自分勝手じゃないか。
ルフィは訳の分からぬ理不尽さに眉を寄せた。
部屋に入って扉を閉めると、ガチャリと重い金属音が響く。
ルフィからすれば広いその部屋は、その男の存在により随分と小さい印象を持った。
たった数歩でベッドまで歩むと、その中にルフィを放り投げた。
「っ、てぇな……一体何なん」
だ、と続ける前に白ひげの厚い唇がルフィのそれを塞いだ。
「っ!?んんっ、」
急の事に一瞬身体を硬直させ、しかしすぐに逃れようと暴れだした。
白ひげは驚いて抵抗するルフィを押さえつけ、片手でルフィの両手を掴んで頭の上に固定させた。
もう片方の手は唇から逃げようと顔を振るルフィの顎を掴み、口付けを更に深いものにした。
「ンンッ…!」
ルフィは鼻で息をするのも忘れ、口付けを受けたまま必死に酸素を吸おうと口を開閉させる。
しかし入ってくるのは男の酒の味のする唾液のみ。
強い酒を知らないルフィには、その唾液ですら酔うことが出来るほどだった。
段々と身体に力がなくなり、思考が霞むようになった頃、白ひげは漸く唇を離した。
「ッ!はっ、あ…ゲホッ!」
漸く解放されたルフィは、咳き込みながらも肺に酸素を送り込む。
驚きで目を見開き過ぎたが為に目が乾くのを補い、通常以上に水分を含んだ瞳が痛みを訴えた。
ルフィは漠然と白ひげはなぜこんなことをするのかと疑問に思ったが、パニック状態の頭ではそれを言葉に変換することが出来なかった。
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