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ぼちゃんという音がする前に、白ひげはすでにもう1つの酒を開けていた。
グイ、と一度大きく喉を上下させて酒を胃に送ると、ニヤリと口角を上げる。
「言ったろうが、てめェが欲しい、と。今日からてめェはおれのもんだ」
その言葉通りに、大きな手が背中に回された。
そのまま ひょい と持ち上げられたかと思うと、胡坐をかいて座っている膝の上に降ろされる。
ゴツゴツとした筋肉質のそれはお世辞にも居心地が良いとは言えない。
海賊王の膝だとしたら尚のことだ。
それに加えて、その巨体に見合う 盛り上がった筋肉の凹凸が更にバランスを悪くする。
さっさと降りてしまいたい所だが、身体に回された手がそれを妨げた。
落ちないように支えているのか逃げないように捕まえているのか、おそらくはどちらでもあるのだろうが後者の方が重点が重い様に思う。
支えるにしてはしっかりと身体に回された手がそれを物語る。
手を退かそうと男の指を引き剥がしにかかるが、指先一つ動くことはなかった。
それがガキ扱いされているようで癪に触ったが、本気になるまでもなしと早々に諦めることにした。
「…おれはおれのもんだ」
「グララララ!おれァ海賊だぜ?欲しいもんは奪う、それが海賊だァ!」
己は海賊だと胸を張る男に、おれだって海賊だと言おうとして口をつぐむ。
冒険を捨てたおれは、きっともう海賊ではないのだろう。
四皇という名を受け入れる気も更々ない。
ならば、今のおれは一体何なのか。
「……おれは物かよ」
皮肉を込めてそう言えば、その通りだろうと即座に返ってきた。
「物じゃねェってんなら、ちったァましな面しやがれ。ガキのくせに死んだ魚みてェな目しやがって」
言い返す言葉が見つからず口を閉ざした。
この男がそうだと言うのなら、きっとそうなんだろうと訳もなく思った。
ただ、この男にそこまで言われる今の自分の顔は、一体どんなものなのかと少し気になった。
「丸1日寝てたんだ、腹減ってるだろう。メシ食いに行くか?」
そう言うと男はゆっくりと立ち上がった。
男が一体何を企んでいるのか、男の心底が分からず困惑した。
「……いや、そんなに減ってねぇからいい。腹もまだ痛いし」
「なんだ、随分とやわになっちまったもんだなァ」
「…愛のある拳はいてぇんだよ」
「グラララ!そりゃそうだァ!」
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