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「……何してんだい?」
呆れたような息子の声に我に返った。
声の方を見やると、料理を両手いっぱいに持ったマルコが訝しげに部屋に入ってきた。
「うおお!うまそー!!」
「当然だよい。うちの料理人が腕によりをかけて作った飯だからない」
ルフィは料理を見た途端にニューゲートから離れ、並ばれる料理を前にだらだらと涎を垂らす。
犬みてェなヤツだと笑いながらも、一方で離れていった熱に未練じみたものを感じた。
「さぁ、好きなだけ食えよい」
「食っていいのか?!」
「ああ、早く食わねぇとまだまだ追加が来るよい」
「やったー!」
いただきます!
言うが早いか、途端に凄まじい勢いで料理をかき込む。
きちんと噛んでいるかも分からない程のスピードで食されていく料理に、これがエースを上回る大食いかと納得した。
時折口から漏れる感嘆に、一応味わってはいるのだと分かる。
「うんめー!おかわり!」
「グラララ!食え食え!」
遠慮のえの字もないルフィに純粋に好感を抱く。
しかし随分と幸せそうに食うもんだ。
見ているこっちまで良い気分になる。
お世辞にも行儀よいとは言えない姿にまで見惚れている自分に、“恋は盲目”なんて言葉が頭を過り内心苦笑する。
「……オヤジ、ちょっと良いかい?」
いつの間にか隣にいたマルコが、そっと耳元で口を開いた。
いつになく真剣な顔の一番息子に、何かあったのだと直感が働く。
「…どうした?」
「それが……」
迷うようにエースとルフィをちらりと見た後、2人に聞こえない程度の声で話し出した。
「──…と言うことなんだよい」
「そうか」
決して良い知らせではないはずのそれに、息子には悪いが口角が上がる。
まさかこんなチャンスが舞い込んで来ようとは。
(歳を食うと悪知恵ばかり働いちまう)
「おいエース、おめェの初舞台だ!」
「…おれの初舞台?」
何かあったのかと此方を見ていたエースに声を掛ければ、何事だとルフィもその手を止めた。
「おめェもオーズのこたァ知ってるだろう?」
「あ、ああ。確か今は南米の方にいるって…」
「そうだ。そのオーズがちぃとヘマしちまってなァ。おめェに尻拭いに行ってもらいてェんだが」
「えっ?!」
突然の話に驚くエースに、すぐにでも行ってもらいてェと追い討ちをかける。
すると今度はマルコが焦ったように身を乗り出してきた。
「オヤジ!大分慣れたとは言え、エースにはまだ早いよい!」
「っなことねぇ!オヤジ!行く!行かせてくれ!」
暗にお前には無理だと言われたと感じたエースがマルコに張り合う。
確かにエースはまだ浅いが、ある種のカンがあった。
きっとエースとオーズは相性がいいに違いない。
それに、
「それに!弟はどうするんだよい?!」
「っ!ル、ルフィは…」
「1日2日程度の問題じゃねぇんだよい!早くても1週間はかかる!」
目を泳がせるエースに、上手く行ったとほくそ笑む。
「そこのガキはここに置いてきなァ」
「「オヤジ?!」」
己のせいで揉めているのかと表情を曇らせたルフィに、おめェは何も関係ねェと髪を交ぜるように頭を撫でた。
「ハナッタレ。エースがいねェ間ここに泊まれ」
「……いいのか?」
「ガキが一人増えたぐれェじゃ何も変わんねェよ」
そう、『白ひげ』のその広い店の上の階は家になっており、ほとんどの店員がそこで生活している。
だからルフィ一人が増えた所で何も問題はないのだ。
「でも…いいのかオヤジ?」
「グラララ!どうしたエース、怖じ気付いたか?」
「!んな訳ねぇ!オヤジ、ルフィを頼んだぞ!」
「んー、何かよく分かんねぇけど、しばらくよろしくな おっさん!」
「はぁ…もう好きにしてくれよい…」
「グラララ…」
さて、制限時間は早く見積もって1週間。
どう落としにかかるか。
ニヤリと笑うニューゲートの瞳は、少年のように輝いていた。
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