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「エースにてめェを連れて来いと命令したのはおれだ」



「な、」


思わず目を見張った。

家族を愛するがあまりのでまかせかとも思ったが、真っ直ぐな目が真実だと告げる。



「グララ、間の抜けた面しやがって…そんなにおれがてめェを攫ったのが可笑しいか?」

「なんで…おれを連れ出して、なんかおっさんに良いことあんのか?」


いいやない筈だと視線で肯定を妨げる。
そんなおれを、男は愉快そうにその目に映した。
グララと独特の笑い声が鼓膜を振るわせ、神経を逆撫でる。


「てめェは随分と変わったなァ、ハナッタレ」

「話をそらすなよおっさん」

「まぁ聞け。てめェも変わったが、おれも変わっちまった」


笑顔で変わったと豪語する男に、何が変わったのだと拳を強く握る。

おめぇが変わったのは立場だけだろう?
四皇から海賊王へ。
まさかそれをわざわざおれに伝えるために連れて来た訳じゃねぇだろうな。

握った手のひらに爪が刺さり、爪は小さな凶器となって皮膚を傷付けた。

もうとっくに〔海賊王〕を諦めたつもりでいたが、まだ受け入れられていなかったらしい。
目付きが悪くなっていくのが自分でも分かったが、止めることは出来なかった。


「てめェと戦ったあの日から、1日たりともてめェを思い出さねェ日はなかった」

「…何が言いてーんだ」

「てめェが欲しい」


そう言うと白ひげはどっかりとその場に腰を下ろし、おれの手を掴んだ。
そしてその巨体を屈ませ、傷付き血の滲んだ手のひらに口を近付ける。

ぬるりとした舌が手のひらを這い、血を絡めとる。
ビクリと指先が震え、ぞくぞくと背筋に何かが走った。

屈んでなお己を見下ろすその瞳に、一瞬全ての音が消えた。


が、直ぐ誰かの笑い声によってその沈黙は破られた。


「っめろ!」

バッと腕を払うと思いの外簡単に外れた。

「……なんのつもりだ、おっさん」

「グララ、消毒だ消毒」


ギッと睨み付ける瞳に、白ひげは気にするでもなくひょうたんに入った酒を煽る。
酒臭くなった手が酒に染みてヒリヒリと痛んだ。


「てめェも飲むか?ハナッタレ」

「……いらねぇ。それより船を一艘くれ」


ひょうたんを逆さにして酒がなくなったのを確認すると、お役ごめんとばかりにひょうたんを海へ投げ捨てた。


「グラララ!そりゃあ出来ねェ頼みってもんだ」



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