嘘吐き (ロール)
※ローが女とセクロスしてます。
苦手な方はブラウザバックをお願いします。
欲望に塗れたネオンが視界にちらつく。チカチカと忙しなく変化する蛍光色は目に悪そうだが、最早嫌悪感はない。ここに来たのはもう何度目だろうか。
所々から香ってくる香水は、己の腕に絡みついてくる女のものなのか否かすら分からない。五感の内最も順応能力の高い嗅覚が未だ違和感を感じているのだから、身体に吹き掛けた香水の量は定かではない。ホテルについたら即刻シャワーを浴びさせよう。
適当なホテルを探していると、メールの着信音が上着から響いた。わざわざ他の着信音と変えているそれは、あいつからのものであると知らしている。
「電話かしら?」
「…いや」
カチャリと携帯を開くと、想像通りの相手からだった。
いつもの長文にカチカチとスクロールしていくと、最後に画像が添付されてあった。
「麦わら屋…今日はまた一段とやったな」
「え?」
「なんでもねぇ」
長々と書かれたメールには、省略すれば今どこに誰と何をしているんだ、早く帰ってこい、おれのことを愛してないのか、お前が帰ってこないから腕がこんなことになってしまった、と怒りを隠すこともなく書かれており、最後にはご丁寧にリストカットの画像まで添付されていた。
読むだけ読んで携帯を閉じ、適当にあったホテルに入った。何の話もしていなかったが、女もそのつもりだったのかまんざらでもなさそうについて来た。お互い名前すら知らないというのに無用心なものだ。
適当な部屋を選びボタンを押すと、またメールの着信音が響いた。先程のメールから5分と経ってない。
内容は先程のメールへの返信がないことへの怒りと、女と一緒なんだろうと全くもってその通りのことが書かれてあった。
そしてやはり最後には画像が添付されており、そこには先程の添付されていたものより、さらに傷の増えた腕が写されていた。
血だらけだが、傷自体は浅い。放っておいてもその内勝手に止まるだろう。
この程度はいつものことなので特に気にしない。
「またメール?」
「…あぁ」
短く返事をし、それ以上のことは言わない。
さっさと部屋へ行くと、女をシャワー室へと促した。
素直に入っていった女を見てから、携帯に目をやる。
そろそろ3通目が届く頃か、もしくは電話がかかってくるか。
ちょうど前のメールから5分が経った時、メールの着信音とは違う音が鳴った。
どうやら後者だったらしい。
うるさい携帯を片手に、それでも電話には出ない。鳴り止まない携帯は着信時間いっぱいまで鳴り続け、一度止まっても再度またかかってくる。3度程繰り返した頃、ようやく通話ボタンを押すと、叫び声のようなヒステリックな声が携帯から溢れた。あまりに大声過ぎて音が割れている。
話を聞くでも話しかけるでもなく、しばらく携帯を眺めていると、ようやく通話中になっていると気付いたのかこちらに向かって話しだした。
『おい!今何してんだ!!なんで帰って来ねぇっ?!!メールみただろ!!今どこにいんだっ?!!』
「……よぉ、麦わら屋ァ。今日もまたやらかしたみてぇだな…」
『おれはどこにいるのかって聞いてんだ答えろォッ!!!』
「ラブホ」
麦わら屋の雄叫びに、ご想像通りの事実を伝えてやる。わざわざ嘘をつく必要はない。
すると瞬時に麦わら屋の怒り狂った叫び声が部屋中に響いた。うるせぇ。
「おい、もう切るぞ」
あまりの大音量に耳を塞ぎながら、一言告げて通話を切った。
果たしてあの雄叫びの中でおれの声が聞こえたかどうか。
パタンと携帯を閉じると、いつの間にか風呂から出ていた女がこちらを見て性格の悪そうな笑みを浮かべていた。
「だぁれ?切っちゃうなんて酷いじゃない。あんなに叫んでたのに」
言葉とは裏腹に楽しそうな声で笑っている。ああ、やっぱりこのくらい性格の悪い女がちょうどいいな。切り捨てやすい。だがプライドが高そうだ。長く付き合うには向いてない。これが終わればサヨナラだ。
首に手を回そうとしていた女の手を掴み、ベッドへ押し倒す。
やることやって、さっさと帰るか。
PPPP…
また携帯が鳴った。電話の方だ。
無視をしてそのまま進める。麦わら屋は今頃どんな顔をしているだろうか。醜い、嫉妬に狂った顔をしているんだろう。想像して笑えた。
あんなに純粋無垢という言葉が似合っていた男を、一体誰があそこまで歪めたのか。考えなくても分かる。
電話の着信音は、出る気がないと分かったのかいつの間にかメールの着信音に変わっていた。
「ん…ねぇ、電源切ってくれない?うるさいわ。あんっ」
女の手が枕元に置いてある携帯に伸びた。
ちょうど電話の着信音に変わったそれを、女の手が届く前に取り電話に出た。
信じられないといった風の女の顔に、ニヤリと笑ってやると女の顔が引きつった。ここはうっとりする所だろう。全く失礼なやつだ。
「──麦わら屋、何の用だ」
『今何やってんだお前!!』
「野暮なこと聞くなよ麦わら屋。セックス中だ。今ちょうどいれたぜ?」
『うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁあぁぁああ!!!!何でお前は毎日毎日!何で!何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!!おれのことがっ!嫌いになったのか?!そうなんだろ?!だからおれが血塗れになっても無視すんだろ?!おれはこんなに愛して!愛して愛して愛して愛してるのにあぁあぁぁあぁぁああ!!!!』
涙声で叫ぶ麦わら屋の電話は聞き取りづらい。それでも一言一句しっかり聞き取るのは、まさに愛の為せるわざだ。
「落ち着けよ麦わら屋。傷なら毎回手当てしてやってんだろ?」
『仕方なくか?!だったらもういい!死んだ方がましだ!もう死ぬ!死んでやる!!愛されないくらいなら…っ』
「まぁ待てよ麦わら屋。おれだって、愛してるんだぜ」
そう、情事中お前の事を考えないと勃たないくらいには、な。
『だったらっ!何で…っ』
何で、何でと、今度は弱々しく訴えてくる声に、少しの苛立ちと愛しさが胸に広がった。
麦わら屋と知り合って、もう一年は経つか。
それから本当に毎日、毎日。バカみたいに腰を振って。
『なぁ…何でなんだよ…愛してるなら、何で…』
「………」
(何で、か…)
おれの方こそ、何で。
何でお前はおれをみねェ。
おれは後何度、こんなバカみたいなことを繰り返したらいいんだ。
全てはお前次第なのに、お前は一向におれと対立しようとしないんじゃないか。
なぁ、麦わら屋。
『何でんなことできるんだよ、
エース!!』
ああ、やっぱり。
お前はおれのことなんざ、
「愛してなどいねェじゃねェか」
たった一度でも、お前が『おれ』に愛してると言ってくれたなら。
おれはこんな虚しい行為を繰り返さずにすむというのに。
愛していると喚く携帯を冷めた目でみても、結局おれは電源を切ることは出来なかった。
2011.9.2
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