教育実習生のおにいさんB
今日の体育は、体力テストの持久走だった。
しょうじは、小学校の頃から野球をやっていたお陰で、人並みの体力はある。
しかし、元来のめんどくさがりのため、とにかく疲れることが嫌いだった。
持久走は軽く憂鬱だった。

「二人一組でタイム記録するって。ペア組もーぜ」

ゆうたが意気揚々と寄ってきた。
体操服を着ていると普段の2割増いきいきして見える。
毎年マラソン大会1位の体力バカは、とにかく身体を動かすことが好きなようだ。

「いいけど」
「じゃあおれ先に走るから、タイムよろしくな」
「おお」

小走りでスタートラインにつくゆうた。
ぴょんぴょん跳ねたり、膝や足首を動かしたりと、常に動いている。

先生の号令でスタートした。
ゆうたは先頭集団のに混ざって、軽やかに走り出す。
しなやかな脚が規則的に地面を蹴る流れを、美しいとさえ思う。
一見細く見える脚には、力を込める瞬間に筋肉が浮き上がる。
しょうじがぼーっと見とれていると、誰も居ないと思っていた隣から声がした。

「ゆうたくんの走り、かっこいいね」
「!!」

驚いて振り向くと、まもる先生の横顔があった。
なんでここに。
どちらかというと、うざいという意味で。

「え、なんで居るんですか」
「この時間は授業も見学もないから、クラスのみんなと触れ合う時間なんだ」
「はあ…」

花が優しく開くような笑顔を向けられても、しょうじは間抜けな声で返事をするしかできない。
そういうことは女にむけてしろよ、と思いかけて、そういえばホモだったと思い出し、警戒心が沸く。
とりあえず、それ以上なにも言わずにゆうたのほうに集中する。

「しょうじくんは、ゆうたくんのことが好きなんだね」

何を言い出すんだこいつ。
しょうじは呆れて、そして図星をつかれて声も出ない。

「運動できる子ってかっこいいよね。ほら見て、もう2番の子ずいぶん引き離してるよ」

しょうじが黙ってしまっても、まもる先生はかまわずしゃべりかけてくる。
どういうつもりで言っているのか、真意が読めず不気味だ。

「ゆうたくんって体操服似合うね。この学校のハーフパンツってちょっと短めでかわいいよ。
 上も布がぺらぺらでいい感じだね」
「え?」

何の話だ。
真顔で妖しげな台詞を吐くまもる先生が怖い。

「しょうじくんは走るの得意?」
「いや、別に、得意では」
「そっかあ。先生も実はあんましだな」
「はあ」
「かわいい子は運動なんかしなくたって十分だよね」
「…?」

なんだか文脈がおかしい。
小さく首をかしげるしょうじ。

「しょうじくんはただそこにいるだけでかわいいから。ゆうたくんが好きになっちゃうのもわかるな」
「え、なんですか」
「次、しょうじくんが走るところも、ここで応援してるからね」
「……」
「ほら、あと半周だよ。ゴールしっかり見ててあげないと」

言われてゆうたの姿を探すと、最後のカーブを大股で駆けてくるところだった。
しょうじは、ストップウォッチを持った体育の先生のそばに行く。
体よくまもる先生から逃げられてほっとした。
ゆうたのゴールに合わせて、タイムが読み上げられ、しょうじはそれを記録係に報告する。

「しょうじ!大丈夫?」

背後から肩を叩かれる。
頬を上気させたゆうたが、食いつくように聞いてきた。
しょうじが好成績なそのタイムを教えると、ゆうたは、そうじゃない、と足を踏み鳴らした。

「さっきまもる先生来てただろ。なんかされてない?」
「いや、それは」
「されたの!?」

両肩をがしっと掴まれて痛い。

「されてない。けど、あの先生やっぱちょっと変だな、変なこと言ってた」
「どんなこと?」
「えー」

体育の先生の号令で、言葉を遮られた。
次はしょうじが走る番だ。

スタートラインにつくと、2つの強烈な視線がしょうじに突き刺さった。
第一陣の少し後方で走り始める。
面倒くさいことになって、ただでさえ嫌いな持久走は、まるで苦行のように感じられた。
ときおりゆうたのほうを見ると、凝視されているらしく、必ず目が合った。
さらに、ついでにうっかりまもる先生とも目が合ってしまい、気まずくてしょうがなかった。
真ん中くらいの順位で走り終えたときには、心身ともにへとへとだった。

「しょうじおつかれ!」

犬のように駆け寄ってくるゆうた。

「わかったから、先に記録係のほう行ってこい」

しょうじは座り込んで、必死で息を整える。

「おつかれさま」

危険人物に声を掛けられて、ぎくっとする。
ここは、疲れて余裕がないふりをして、シカトでやりすごせないか。

「やっぱり見てて思ったけど、しょうじくんも体操服似合うね。
 ぶかぶかのシャツからほっそい腕と脚が伸びてて、風を切ってシャツが胸やお腹にはりつくんだよね」

さっきよりもあからさまに変態的な言葉を吐きかけてくる。
しょうじは、自分をえろい対象と叙述するそれらに、耳を塞ぎたくなった。
しかし希望とは裏腹に、まもる先生は身をかがめて、しょうじの耳元で囁いた。

「乳首透けてるの、見えてるよ」
「!!」

しょうじは弾かれるように、片腕で胸を隠す。
その様子を楽しんだのか、まもる先生はくすっと笑うと、踵を返して他の生徒のほうへ行ってしまった。
周りに悟られないようにこっそり乳首を確認すると、確かに運動したせいで立っている。
しかし、しょうじの乳首なんて立っても米粒くらいの大きさしかないから、まず透けはしない。
明らかにからかわれているとわかり、しょうじは警戒を通り越して、敵意を抱き始めた。


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