■ 恋人の時間 □



 将来の夢は火影を超す!

 そう宣言した幼子が眩しかった。

 細い四肢、弱い身体、平均よりも幼いそこに九尾を内包し、里の憎悪を一身に背負う存在。

 尊敬する先生の遺児だから、という理由だけでなく、太陽のような笑みで未来を告げた子供がひどく綺麗で、ひどく尊いもののように思えて、俺はこの子の導き手となることを決意した。

 師となることに俺自身多少の不安もあったが、幸いナルトは素直で真っ直ぐな気質で、口ではブツクサ不満がりながらも誰よりも俺を信頼するようになり。

 俺もまた、カカシ先生、カカシ先生、と懐いてくる子供に常にない慈しみを覚えるようになっていった。

 そこからは、坂道を転げ落ちるような心地だったと記憶している。

 ただの慈しみだったはずなのに、一秒ごと一分ごと一時間ごとに俺の気持ちは変わっていった。

 可愛らしい。触れてみたい。見つめていたい。愛しい。いとおしい。そばにいたい。つながりたい。

 大きすぎる変動に自分でも驚き戸惑いはしたが、最終的な到着点である好きだ愛しているに変わった頃には、ああそうかそうですかと、受け入れるしかなかった気がする。

 それ以上の変化はないだろうと思って、俺はなかば投げやりにナルトへ告白した。

「ねーナルト、先生お前のことが好きなのよ。だから付き合おうか。うん、それがいい。はいキマリ、決定ね」

 怒涛の勢いで変わっていった自分の感情に辟易していたこともあって、かなり軽い告白だった気がする。だけどその段階で好きなのも愛してるのも本当だったから、目だけは真剣にナルトの顔を見つめていたと思う。

「決定って……カカシ先生ってば強引すぎじゃねぇの。俺の意見は?」

 本気の気持ちが伝わったのか否か、ナルトは目を大きくして首をかしげた。その顔も可愛いな、と思って、俺は目尻を垂らして笑いかける。

「お前の意見、聞くだけ無駄だから。ま、念のために一応聞いてあげるけど、じゃあナルト、どうする? 俺と恋人になったら、一楽にも連れてってあげるし修行もみてあげるし、かなりお得だと思うよ。ちなみに、付き合ってくれないなら今後一切それはしません。任務以外は絶対なーんにもしてあげません」

「むー、カカシ先生、卑怯だってばよ。んなこと言われたら、俺ってば、付き合うしかねぇじゃん」

「だから無駄って言ったでしょ。じゃあ今からナルトは俺の恋人ね。俺以外の人に好きとか言ったり、抱きついたりしたら駄目だからね」

 こんなスタートで俺とナルトは付き合うことになったのだけれど、ナルトには申し訳ない話だが、正直俺は自分の気持ちがそんなに長続きするとは思っていなかった。

 なにせ、感情の変化が急激すぎたから、そのうちまた急激に萎えていくんだろうと予測できたからだ。

 もともと、特定の相手とは一月すらもたないタチだし、相次ぐ任務で恋人としての時間なんか取れないだろうしで、そのうち自然消滅すると思い込んでいた。

 そんな予想をしていたのに付き合って欲しいと希望した理由は、俺の気持ちが萎える前にナルトが誰かのものにもなってしまえば、気持ちは消えることなくずっと燻るだろうと想像できたから。

 だから、俺の気持ちが少しでもあるうちは俺のものにしておきたいという、なんとも身勝手な意思のもとの告白だったのだ。

 そして、予想外にもその考えが間違いだと気付いたのはすぐだった。

 恋人としてのナルトは申し分なく俺を立てて俺の迷惑にならないよう行動し、任務中もプライベートを混合することなく俺を上忍師として接してくれた。

 そんな風に分別をわきまえた相手との交際が居心地悪いはずもなく、付き合い始めて一週間二週間と経過するうち萎えるどころか俺の気持ちは始まった時よりも燃え上がっていたのだ。

「カカシ先生ってば、どうして抱っこしたがるんだ?」

「んー、それはね、ナルトが可愛いからだよ」

 毎日のように修行をみてあげて、その流れで自宅に連れ込んで、あれよあれよと半同棲のような形に持ち込んで。

 公言したり吹聴したりしているわけではないけれど、俺とナルトの関係はほぼ公認のようになった。

「カカシ先生、あーんしなくても俺ってば一人で食べられる」

「んー、いいじゃない。俺が抱っこしてたら食べにくいんでしょ」

 そして、どうしようもないくらいにナルト一色になってしまった俺が次に考えるのは、どうやってこの幼な子を俺のもとへ留めておくか。

 この子供は髪の色と同じくらいに光に満ちていて、出会う者出会う者みんなを虜にする魅力があった。忍としての腕前も知識も実力もまだまだなのに、己の意思を貫く真っ直ぐすぎる空の目で誰もを魅了してしまうのだ。

 身体を使って一足早い大人の階段を上らせることも考えたのだが、三代目から交際の許可を下す代わりに手を出すなと厳命されているからそれは出来ない。

 だから俺はせっせと餌付けして四六時中側にいることでナルトを縛り付けようと思っていたのだが、どうやらその策は失敗のようで、ナルトは俺の差し出したスプーンを前にプイッと顔をそむけた。

「どうしたのよ、ナールト。シチューあんまり好きじゃなかった?」

 食生活に問題のある子供は乳製品と卵関係に目がない。だから俺は腕によりをかけて毎回食事を用意しているというのに、ナルトは目の前の食事をじっと睨んで口を開かない。

「じゃあ、牛乳を飲む? それともココア?」

「……いらねぇ」

 一体何が逆鱗に触ったのか、何をどうしてもナルトの眉間の皺は消えない。さも怒っていますといわんばかりに頬を膨らませて、ナルトは上目づかいに俺をにらみあげてくる。




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あきゅろす。
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