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恋人は正気を保てない
(TOW3)







「ちょ、廊下のど真ん中で立ち止まってないでよ」

「あら、だらしない顔ね」
リタの少し大きい怒声と、後に続いたジュディスの凛とした声にハッと我に返って、その拍子に私は持っていた紙の山を落としてしまった。


「わわっ…」
私のドジにリタはため息をついて、ジュディスはクスクスと笑う。大失態。街の人からの依頼用紙を一枚でも無くせばリーダーであるアンジュにどれだけ怒られるか分かったもんじゃない。慌てて散らばった紙を集めて2人に謝った。


「ごめんねー」

「……あんたさ、最近変じゃない?」
リタも数枚ほど拾って、紙を私に手渡しながら尋ねてきた。


「へ?」

「なんて言うか…心此処に在らず、みたいな」
リタは心配してくれてるみたいで、眉を潜めて私をじっと見つめてくれた。けど隣に立ったジュディスが「そうね」と声を漏らしたのを聞いて、私と一緒に視線を上げた。


「悩み、とかじゃなくてある人の事ばかり考えてしまうんでしょう?」
的確。あまりにも的確すぎるジュディスの指摘に私は笑うしかない。ジュディスにはバレバレみたい。
答えが分からないリタは不思議そうに首を傾げていて、少し不機嫌になる。


ジュディスの言う通り、いつだって私はあの子の事ばかり考えてしまう。何をしていても、何を考えていても、何を見ていても。浮かぶのはあの子の笑顔。


「ほら、だらしない顔」
ジュディスは私の顔を見ながら微笑んでいた。危ない危ない…思い出しただけでニヤついちゃうとか不審人物丸出しだ。ちらりとリタに視線を向けると、不機嫌さはますます度合いが増したようで眉間に皺すら出来ている。


ニヤつくのを我慢して半笑いの私、眉間に皺を寄せて訝しげな表情のリタ、妖しく微笑むジュディス…と若干おかしな空間に沈黙が流れ始めた時、ホールから続くドアが開いた。


「あれ?ここにいたんだね」
その声を聞いて、私はニヤつきを抑えきれずに思い切り笑顔になってしまった。

「カノンノ?」

「こんにちは」
私の笑みを不審に思ったリタはやってきた人物――カノンノを見て疑問を口にして、ジュディスは優雅に挨拶をした。カノンノがジュディスに挨拶を返してる間に私はだらしない顔を引き締めて、爽やかな笑顔に戻す。


「どうかした?カノンノ」

「あ、うん。あのね、アンジュさんが探してたから……どうかしたのかなって」
はにかむ様に笑ったカノンノに私は一瞬で頬が緩んでしまった。


「顔、だらしない」
リタから小声の指摘。いやいや、カノンノのこんなに可愛らしい笑顔を見てゆるっゆるにならない頬なんてないでしょ?!
……と、声には出せない反論を心の奥にしまって、私はカノンノに近寄った。
後ろからリタのため息とジュディスの笑い声が聞こえる。


「それがアンジュさんに頼まれてたの?」

「うん、そう」

「私も半分持つよ」

「え、いいよ。そんなに重くないし」
カッコいい所を見せたいのもあるけど、カノンノの手を煩わせる程の事でもないから私はやんわりと断ると、カノンノは「いいから」と紙の山から半分抜き取った。


「全部持てるのに…」

「私も、あなたのお手伝いしたいもん」

「お手伝いって…」

「どんな些細なことも一緒にやりたいって言うか……ね?」
分かる。すごく分かるよ、カノンノの気持ち。もうずっと一緒にいたい感じだよね?私が笑顔を返してから頷こうとすると、大きな咳払いが聞こえた。


「…アンジュが待ってるんじゃなかったの?」
リタが睨んでいた。そのオーラが「とっととどこかへ行け」と語っているのを感じた私は、本格的な逆鱗に触れないように曖昧に笑った。







――――

10000hitリク「♀主カノで甘い話」ということで、名無しさん、お祝いありがとうございました!


確かにマイソロで百合はあまり見かけませんね…。美味しいと思うんですが。
付き合いたてで、とにかくディセンダーがカノンノ馬鹿みたいにしてみましたがリクエストに沿えてますでしょうか…?



リクエストくださった名無しさんのみお持ち帰り自由です。
ありがとうございましたー!



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あきゅろす。
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