1/6 (けいおん!) 地元じゃない街を深夜に駆け回るのは、なんて不安なことなんだろう。 自転車を全力で漕ぎながら、私は彼女が待つ公園を目指した。 そろそろ寝ようかなとベッドに入って程よく眠気がやってきた時に、鳴り響いた携帯。ディスプレイが表示したのは愛しい人の名前。 ――こんな深夜に? なにか緊急の用事なのかな?と内心焦りながら出ると、いつもと変わらない優しい声が聞こえた。 「あ、梓ちゃん?ごめんね、夜遅くに。」 「別にいいけど。……何かあった?」 「ううん。なんだか、梓ちゃんとお話したくって。」 憂は、メールよりも声が直接聞けて相手が近くに感じられるから電話が好きだと前に言っていたから、その言葉に不自然さは何も感じなかったけど……そう言った声がどこか寂しげに聞こえた。 「憂、まだ眠くない?」 「え?……う、うん。」 「じゃあ、今から憂の家の近くの公園に行くから!……電話じゃなくて、直接話そ?」 私は携帯を肩と耳で挟みながら、素早く着替え始めた。憂の返事は聞かずに電話を閉じて、眠った両親を起こさないようにそっと家を出た。 必死に漕いで、ようやく見つけた憂の背中。ブランコを小さく揺らす憂は虚ろな雰囲気を纏っている。 「憂……。」 「あ……梓ちゃん。」 振り向いた憂の目は赤かった。 「ごめんね、梓ちゃん。もう寝るところだったよね?」 何かあったのは間違いないのに、いつも通り振る舞う憂に私は眉を寄せた。 「……や、ちょうどコンビニに行ってたから気にしないでいいよ。」 私が見え透いた嘘で言い訳すると、憂は「ありがとう、梓ちゃん。」と笑った。 ……私がどんなに頼ってほしくても、憂は絶対に頼ってくれないし弱味を見せない。そうして一人で何かに耐える憂を私は黙って見ることしか出来ないのが、とても歯痒い。 自転車をブランコの近くに停めて、憂の隣のブランコに腰掛けた。 「あのさ、憂。」 「うん?」 頼ってほしい、なんて何度も言ってる。それでも憂が私を頼ってくれないのは、私の気持ちが届いてないからなんだろう。 憂が何を考えて何に悩んでいるのかなんて分からないけど……少しでも、ほんの少しでもその悩みが軽くなればいいのに。 「……滑り台しようよ。」 私の急な提案に憂は不思議そうにしながらも頷いてくれた。 階段を登って、てっぺんに立った憂は下を見ながら「思ったより高いね」と笑う。 私はそんな憂を見上げて口を開いた。 「ね、知ってる?」 「何を?」 「月って重力が地球の1/6なんだってさ。」 「?……うん。」 「だからさ、月にいけばなんでも1/6になるんだよ。」 「……うん。」 「憂が抱えてる悩みも、全部1/6に……なるんだよ。」 そこまで言って、泣きそうになった。 宇宙に、他の何かに頼らなきゃ憂の悩みを軽くしてあげれない自分の無力さがどうしようもなく嫌になる。 「梓ちゃん……。」 憂の気遣うような声が降ってきた。 「……滑り台程度じゃ、子供騙しにもならないけど……。」 泣きそうで、声が震える。憂は黙ったまま。 「いつか……憂を月に連れてってあげるから。……だから……それまでは私を頼ってよ……。」 頼ってほしいのに、何故か私が縋るようにお願いするように言うと、憂も声を震わせながら「ごめんね」と呟いた。 . [戻る] |